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塾講師のためのインボイス制度 ~どう立ち向かうか~(前編)【キャリアコラム#58】

塾講師のためのインボイス制度 ~どう立ち向かうか~(前編)

こんにちは。プロ講師の黒磯直行です。


黒磯 直行 くろいそ なおゆき

新卒で早稲田アカデミーに入社。営業部門長などを歴任し、その後スクールIEにて個別指導塾の運営マネージャー、Z会進学教室およびZ会東大進学教室にて講師として小中高に渡り幅広く指導を続ける傍ら、私立学校教員としても活躍。講師としてのキャリアは当然のことながら、運営サイドでの実務経験も豊富。20年以上塾業界に身を置いている超ベテラン講師。「社会人としての講師育成が業界には必要だ」との思いのもと、後進育成にも積極的な姿勢で取り組んでいる。


12月に入り、クリスマスの雰囲気が一気に増してきました。この時期は、私は毎年クリスマスを堪能すべく、舞浜で過ごすことが多くなります。

実は私、相当のディズニーリゾートの大ファンでして、コロナ以前は複数年に渡って年間パスポートを保持していました。(現在は年間パス自体が発行中止になっているので保有できず残念です。)

1年で最も好きな時期です。もし、パークへお出かけになる際にはお声がけください。最高の過ごし方をお伝えいたします(笑)

目次
どうなる?どうする!?インボイス
0.そもそも論『インボイス制度』とは
1.具体的に見ていこう
2.講師側が納税すべき消費税
3.まとめ

 

 

どうなる?どうする!?インボイス

さて、また少々厄介な税制度が来年2023年10月から導入されます。それが「インボイス制度」です。

消費税の納税に関する制度改革ということになるのですが、残念ながら、私の周りでも、また聞いた話でも、まだまだ浸透していないようです。

実はこの制度、々のようなフリーランスで活動する講師にとって死活問題となる制度です。そして、制度変更の際によくあるのですが、「知ってる人は得をする(損をしない)」そして「その制度を積極的には教えてくれない」ものとなっています。

今回は、プロ講師や塾業界に特化した「インボイス制度」について、私の知りうる範囲でお話しします。

ちなみに、インボイス制度自体は、必ず登録しなくてはいけないものではありません。ご自身の事業形態と支出のバランス、また取引先との関係性や契約内容によっても必要がどうかが変わってきます。ただ、講師職に特化してお話するのであれば、インボイスには登録したほうがよいケースのことが多いのではないかと推察しています。

この記事を執筆している2022年12月4日現在の情報でまとめています。今後、さらなる変更などがある場合があります点はご注意ください。

0.そもそも論『インボイス制度』とは

簡潔に言うと、インボイス制度とは、消費税の納税に関する新しい制度です。

”invoice”という英単語自体は「請求書」という意味です。インボイスに登録すると、『適格請求書発行事業者』になることができ、『適格請求書』を発行する権利を得ることになります。適格請求書を受け取った事業者(企業側)は、その請求書で支払った消費税を、企業が納税すべき消費税から差し引く(控除)することができます。

逆に、講師側がインボイスに登録していない場合、適格請求書に基づいた支払いではありませんので、事業者は消費税を控除できず、企業はこれまでより多くの消費税を納税しなくてはならなくなります。

そして、この『適格請求書発行事業者』になる条件が「納税事業者であること」となっています。つまり、インボイスに登録すると、講師は売上に益税を計上することができなくなるということになるのです。

1.具体的に見ていこう

ちょっと難しい説明になりました。では、具体的にインボイス制度が実施される前と後でどのように変わるのか、以下をご覧ください。

塾が講師に授業を1コマ依頼した場合

これまで(インボイス制度実施前:2023年9月30日まで) 

 塾:1コマ2,000円でお願いします。

講師:では、2,000円に消費税10%を乗せて、2200円請求します。

 塾:この講師の授業は1コマ3,000円で生徒に提供したよ。生徒から3000円に10%の300円を足した3,300円が振り込まれたよ。

ここで、消費税だけ考えます。塾は講師に200円の消費税を渡したうえで、生徒から300円の消費税を受け取っています。

消費税の納税  

 塾:生徒から300円の消費税を受け取ったけど、講師に200円を消費税としてすでに払っているので、このコマに関して塾が預かっている消費税は100円です。消費税として100円納税します。

講師:塾から200円を消費税としてもらったけど、俺は売上1,000万円超えてない小規模事業者にあたるのでこの200円は納税せずに自分のものにして計上します!このコマの売上は2,200円だ!

売り上げが年間で1,000万円を超えない事業者(これを「小規模事業者」といいます)の場合、これまでは消費税として受け取った分を売り上げとして計上(つまり自分のもの)にできるというルールでした(これを「益税」といいます)。

これは、消費税が導入された1989年に、中小企業の負担を軽減するため、また消費税導入の批判をかわすため、当時の政府が制定したルールです。

今回の例の場合には、講師は200円益税が発生し、売り上げは2200円です。また、塾は300円の消費税から講師に支払った200円を控除できます。国としては、本来300円の消費税があるはずなのに、100円しか納税されない、ということになります。

この益税の制度については賛否あります。消費者が税金として支払ったものが正しく納税されていないわけですから批判もありますが、現行ではこのようなシステムになっています。

【インボイス前】
塾…100円納税
講師…納税なし
国…100円の税収

これから(インボイス施行後:2023年10月1日から)

 塾:1コマ2,000円でお願いします。

講師:
では、2,000円に消費税10%を乗せて、2200円請求します。

 塾:
この講師の授業は1コマ3,000円で生徒に提供したよ。生徒から3000円に10%の300円を足した3,300円が振り込まれたよ。

ここまでは同じです。この後、2つのパターンが考えられます。

①講師がインボイスに登録した場合
②講師がインボイスに登録しなかった場合

上記と同じ条件だった場合、それぞれどんな違いがあるのでしょうか。

①講師がインボイスに登録した場合・・・【悲報!】売上が1割減ります。

 塾:生徒から300円の消費税を受け取ったけど、講師に200円を消費税としてすでに払っているので、このコマに関して塾が預かっている消費税は100円です。消費税として100円納税します!

講師:塾から200円を消費税としてもらったので、200円を納税します。売上は2,000円です。1割の減収になります(悲)。

【この場合】
塾…100円納税
講師…200円納税
国…300円の税収

これによって、国は益税分の減収なく、正しく税収を受けることができるのです。

②講師がインボイスに登録しなかった場合・・・【超悲報】仕事がなくなってしまうかも。。。

 塾:講師が適格請求書を発行できない。控除ができないから、生徒から300円の消費税を受け取ったけど、300円をそのまま納税することになる。塾側の売上が200円下がってしまうので、インボイスを登録している他の講師と契約します。インボイスを登録していない講師とは契約しません
講師:仕事がなくなってしまった。。。

これがインボイス制度が導入された後に、この業界に限らず懸念されていることです。

インボイスに登録していないと、取引先企業が講師に支払った消費税を控除できずに丸々納税する必要があります。そのまま企業側の負担が増加するため、取引自体を停止されてしまう事態に陥ることが予想されています。 

2.講師側が納税すべき消費税

取引先の企業が支払った消費税を控除できるのであれば、講師側も、仕事をするのに支払った消費税を控除できるのではないか、とお思いになった方も多いかもしれません。そして、その通りです

例えば上記の例の場合、その授業に出向くためにJRで1100円の交通費がかかったとします。この場合、JRに100円の消費税を支払っていますので、講師が納税すべき消費税は、200-100=100円ということになります

確定申告で『事業経費』として控除しているもののうち、消費税として支払った部分については受取った消費税から控除ができます

しかし、これをするには、該当の取引において「適格請求書」が発行されていることが条件です。

電車運賃など請求書や領収証を発行するのになじまないものは、この適格請求書の発行なしに控除できるようになるようですが、例えば、授業の資料として本を購入し、それを経費として計上する際などには、その本屋さんから「適格請求書」を発行してもらわなくてはなりません。さらには、その経理計算も煩雑なものになります。あまり現実的ではありません。

また、講師業という業態の特性上、いわゆる仕入れや在庫という概念はありません。講師業の商品はモノではなくその本人だからです。故に、もともと控除できるものが多くはないのです。そうなると、支払い消費税の控除は多くは望めず、結局は売上の1割をほぼそのまま納税しなくてはならなくなるでしょう。売上が1割も減少するのは、私たちのような個人事業主からすると非常に大きな痛手です。 

3.まとめ

このように、インボイス制度は我々個人事業主にとって非常に頭の痛い問題になっています。まずは、制度を自分事として捉えて、正しく知ることが大切です。そして、その対策としてどのような行動がとれるのかを考える必要があります。

今回は、塾講師としてインボイス制度を考察しました。

次回は、後編として

 結局インボイスは登録したほうがいいのか。~登録すべき人としないほうがいい人~

節税によって消費税の納税額を軽減する方法

”講師職における”インボイストラブルシューティング

など、より実践的なお話をしたいと考えています。

常に私も申し上げている通り、こういった社会的な制度は知っている人に味方します。塾講師といえど、社会を構成する一員であることを常に自覚し、ともに勉強し研鑽していきましょう。

では、また次の記事でお目にかかります。ありがとうございました。

後編へ続く・・・

「塾講師のためのインボイス制度 ~どう立ち向かうか~(後編)」の続編はこちらからご覧ください。

 

 

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黒磯 直行

記事執筆者:黒磯 直行

新卒で早稲田アカデミーに入社。営業部門長などを歴任し、その後スクールIEにて個別指導塾の運営マネージャー。退任後は、Z会進学教室およびZ会東大進学教室にて講師として小中高に渡り幅広く指導を続ける傍ら、私立学校教員としても活躍。講師としてのキャリアは当然のことながら、運営サイドでの実務経験も豊富。20年以上塾業界に身を置いている超ベテラン講師。「社会人としての講師育成が業界には必要だ」との思いのもと、後進育成にも積極的な姿勢で取り組んでいる。

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