こんにちは。プロ講師の黒磯直行です。
さあ、新学期がスタートしました。同業の皆様、様子はどうでしょうか。
私は、今年は学校の方で中学2年生メインの時間割になりました。中学生は2年ぶりの担当です
私は例年、年度最初の授業でディズニーランドの話を面白おかしくして、そこから英語の話へつなげて生徒たちの勉強へのモチベーションを掴むようにしています。そして、今年も例に漏れずに同じように話をしたのですが、今年は反応が非常に悪いと感じました。
どうしてだろうと思って考えていたのですが、今の中学生世代は、遊園地やリゾート地といった場所にほとんど出向けなかった世代になるんだということに気付きました。小学校高学年から去年までにかけて、家族とも友達とも自由に外出ができなかったということです。それゆえに、ディズニーランドに行ったことない子の割合非常に多い世代になっていたのです。反応が薄いのも当然です。こんなところにもコロナの影響が出ているということに非常に驚きました。この何年かで、子供たちが置かれている環境は大きく変わってしまっていたのですね。
私のように、いわゆる「鉄板ネタ」のような話題をお持ちの先生方も多いと思います。しかし、もしかしたらそのお話はもう今の子供たちには響かないかもしれません。
今回感じたのは、我々が思うよりはるかにジェネレーションギャップは加速しているということです。もちろん、自分自身が年を重ねたことも要因だとは思いますが、それ以上に生きている環境の変化が著しいんですね。
当然、指導要領や学習内容の変化、それに伴って入試の形態、出題傾向も様変わりしています。常に目の前にいる生徒たちの反応や興味に目を配り、独りよがりの授業にならないよう注意していきたいですね。
目次
・学校の先生 VS 塾の先生
・学校の先生が持つ、塾講師に対する印象
・最後に
学校の先生 VS 塾の先生
先日、学校の生徒から「自分が通っている塾の先生が黒磯先生の文句を言っていた」という話を聞かされました。
どうやら、私の作成した定期試験の問題に異議をお持ちのようで、
「なんだこの問題!」「こんな問題解けなくても大丈夫だ!」
と結構な言いようだったようです。
最後には
「塾の先生ならこんな問題作らないけどね」
とおっしゃっていたそうなのですが、「いや、それ作ったの、塾の先生もやってる人(しかもまあまあベテラン)なんだけどなぁ」と苦笑いでした。
もちろん、そんなことを言われれば多少の腹も立ちます。。。しかし、それを生徒の前で言うのはどうなのかという問題はさておき、学校の先生は良い悪い含め、様々な印象を塾の先生に持っているものです。
実際、お互いをどのように思っているのでしょうか。今回は、複数の学校の先生から塾やそこで働く先生に対する印象などを聞き取った結果に私の意見を加えてお話をしていきます。
学校の先生が持つ、塾講師に対する印象
楽そうだよね
実は塾の先生のことをそう思っている学校の先生は少なくないと思います。
塾では、生徒を能力別に区切り、解説と演習の繰り返しに特化した勉強を、受験という目標にしやすい敵を作り、効率よく進めることになります。
特に公立中学の先生などは「成績不振生徒の理解するペースを考えなくてよい点」「生活指導やイベント運営などを考えるよりも、教科指導がメインになる点」が「塾の先生=楽そう」と思わせてしまう要因のようです
「勉強をしたくて来ている子を教えるんだから、そりゃうまくいくよね」とコメントした先生がいらっしゃいました。これがかなり本音で確信を突いていると思います。
塾の先生としてのコメント
全然楽じゃないぞ!!!(大声)
学校の先生がおっしゃることはごもっともだし、実際に学校で授業を担当してみると、上位と下位の差は非常に深刻なことが多いです。公立中学校などはそれはもっと大きな差になることが多いです。
しかし、学力分けされた学習塾のクラスの中でも、やはり格差は存在しますし、それを「できるようにしなくてはならない」という使命があります。しかもそれが上位クラスであれば、「勉強に向かっていないから出来ない」というよりも「やっているのに出来ない」ということも多く、それを合格のレベルまで持ち上げるという労力は、非常に骨が折れるものです。
また、塾の先生にあって学校の先生にないものとして「集客」があります。いわゆる営業ですね。
これは、塾生を確保するという視点だけでなく、入塾してきた生徒を「やめさせない」というのもその範疇です。学校は一度入学したら、基本的にはやめないですからね。
学校の先生こそ、この「生徒=自分を頼ってきてくれているありがたい存在である」ということを忘れてはいませんか??とも思います。
目の前の生徒がいるから、自分が「先生」であることができるのです。特に公立小中の先生であれば、入学者を集めるということは絶対にないです。(この集客という点では)生徒がいないということはあり得ません。私立学校や高校では「募集活動」はありますが、見ている限り、管理職や生徒募集担当にならない限り、あまり意識している先生は多くないように思えます。
また、目の前の生徒が減ったりいなくなったりすることはありませんから、授業の質を高めたり、最新の入試情報や動向を積極的に知らなくても1年は少なくとも担当することになります。(学校の先生方がそれをしたくても、忙しすぎて手が回らないというのは非常に共感します。)
しかし、塾・予備校は違います。
塾生を獲得できなければ、自分の授業が成立せずに仕事を失うことになりますし、正社員となれば、教室一丸となって生徒の獲得へと動きます。さらに学校と異なり、途中でやめてしまうことも多々あります。一度獲得したら、今度は「やめないように」様々な仕掛けをしていくんですね
学校の先生も大変だと思いますが、やっぱり、塾も楽ではないですね。。。。
「思考力」「探究」をさせるのに、邪魔な存在かも
昨今、授業内での「探究活動」「調べ学習」「アクティブラーニング」など、新たな学習の仕方やツールが多々出現しています。学校でも、ICTはじめ積極的に取り入れています。塾の先生は、この変化に対する情報が、もしかしたら不足していることが多いかもしれません。
学校の授業内では、この探究など、きちんと思考させ追求させるような授業展開がなされることになります。一方で、塾に通っている生徒は、上記の通りペース速く進んだ状態で、いわば「後追い」で学校の授業を受けることになります。もう結果を知っていますから、「どうして」「なぜ」の手順を踏まずに「効率のよい答え」を教え込まれているので、模範解答は書けますが、他の意見を聞いて考えを深めるような場面では活躍しません。
実は、先ほど私が紹介した塾の先生が指摘した問題が、そのタイプの出題部分でした。正解を選ばせた後に、「他の選択肢がなぜ間違っているのかを説明させる」問題を私は出題したんですね。
塾の先生から言わせれば「答えあってるんだからいいじゃん!」ということだと思いますが、観点別評価が主流の今、思考力を評価する必要があるので、このような出題をしました。この塾の先生がおっしゃるように、私も塾の先生ならそんな作問はしません。学校と塾とでは、目的や評価対象が違うということです。お互いがその認識を持つ必要があるかな、と思っています。
塾の先生としてのコメント
入試の形態が変わらないことには、どうしても効率よく解答を求める指導になってしまう
塾の先生の中にも、「思考や過程が大切」と考えている方も多いです。
しかしながら、限られた時間のなかで効率よく指導をしていくには、やはり「最短で」「効果的に」解答にたどり着く術を身につけさせることが必要になります。時間をかけて、じっくりと・・・という指導はなかなか学習塾、特に受験指導においてはなじまないというのが本音です。
しかし、昨今大学入試をはじめ、この「思考」や「過程」を重視した問題を課している学校も多くなってきました。
今年の慶応義塾大学の英語で、「日本語の文を読んで英語で解答する」というものや、早稲田大学でも「レストランの予約メールを英語で書く」といったクリエイティブな新たな観点からの出題も出てきています。このように入試自体が変わっていくと、我々塾や予備校も同じように対応をしていく場面も多くなるでしょう。
また今後、現在の指導過程で学習した子供たちが社会へと出ていくようになると、当然塾や予備校の業界にもこの世代の人材が流れ込んでくることになります。そうすると、いつか塾や予備校で教える内容やアプローチの仕方が変わってくる可能性は非常に高いと私は思っています。その時に、今この記事をお読みいただいている先生方がうまく柔軟に対応できるかが、この業界で生き残っていけるかどうかを左右する日が来るかもしれません。
教育を「喰いもの」にしている
塾や予備校は「ビジネス」で、そこには当然お金のやりとりがあります。また、受講生を集めなくてはなりませんから、大手を中心に大々的な宣伝・広告も実施しています。そこを毛嫌いする先生は一定数存在しているのは事実です。
また、私の経験談ですが、受験生の受験票を学校の先生に取り上げられたことがあります。
ある中学3年生が複数の難関私立の受験に挑みました。一定の成績上位者が複数の私立学校を受験して、その合格実績を数字として計上するというのは、この業界ではあるあるです。つまり、一人で複数の学校に合格をして、それを別々の実績として積み上げているというものですね。
これを、その学校の先生は嫌ったのでしょう。その子の第一志望合格が出た日以降に受験日を迎える学校の受験票をすべて没収してしまいました。本人は「自分の実力を試すためにも受けたい」と申し出たのですが、「塾にいいように使われているだけだ」「塾に協力する必要はない」(ほんとにこういう言い方だったそうです)と学校の先生に言われたそうで、結果としてその生徒はそれ以降の受験を断念しました。翌年以降、それに対する策を講ずることになりました(内容や方法はまたどこかで)。
また、上記にわざと「難関」という記載の仕方をしたのですが、この言葉自体にも違和感を覚える先生もいるでしょう。
「その子にあった、その子が希望する学校に行けばいい。宣伝になるような有名な学校以外はだめだ、みたいなことを塾は思っている」
「塾は実績のために、つまり宣伝のために無理矢理受験校を増やしている」
など、子供をビジネスとして利用している(?)ことや、特に受験を前面に押し出すことに抵抗を感じる方は多いようです。
塾の先生としてのコメン
お金をいただく大切な「お客さま」であるが、「学力の向上」「進路の希望を叶えたい」という気持ちは同じ
合格実績については、特に受験指導を前面に押し出している塾にとっては非常に有効な宣材になります。
ある学習塾では、「〇〇高校合格は2ポイント」などとポイントを設定し、その累積を教室や講師の評価(つまりインセンティブ)に用いるというのもあります。そうなると、そのポイントになる学校の受験者を増やす方向に舵が向くのは当然です。
そこで、その「目先の数字」だけを見て、無理やり受験させたり、塾側が費用を負担して合格実績だけを得るようなことがあったとすれば、それは問題です。そういった間違った見方をしている塾講師や塾スタッフは少なくないでしょう。このような点が、学校の先生に「生徒をお金として見ている」と思われてしまう要因です。
しかし、私はこの合格実績は「あとからついてくる」と思っています。生徒や保護者との信頼関係をしっかりと構築したうえで、希望を叶える過程として複数の受験を促していくということです。
例えば、公立高校希望の生徒に早稲田付属の受験を勧めると「公立校希望者になぜ私立の付属校を受けさせるのか」というツッコミがきそうです。
しかし、私は「能力があるなら、公立だけに受かる学力だけをつけるのではなく、それ以上の力もしっかりつけたほうが絶対にいい」と本気で思っていて、保護者会などでもそのような話を良くします。全部受かって第一志望に行けばよい、という考えです。
進学校に進むということは、また3年後があるということです。そこまで見据えた受験指導とプランを提示できるように心がけているのです。
そして、たとえば早稲田付属に合格した子が公立高校に進学すれば、大学では早稲田以上を目指そう、と目標にできるはずです(というかそのような意識になるように持っていきます)。その生徒のプラスになるようにプランを組むことを心がけていますし、それが会社(塾)の意向に沿うものになるように長い時間をかけてWIN-WINの状態を作れるよう心がけています。
自分の授業や知識を提供して、それに対して対価を頂戴するというのは至極当然ですし、それが経済の基本構造です。塾の先生方は自信をもってご自身の業務にあたってほしいと思いますし、対価に恥じない授業や情報を提供できるよう、日々努力と勉強を怠らないようにしましょう。
最後に
ずいぶん前の記事になるのですが、塾と学校の違いについて投稿したことがあります。
私は、学校とは本来、その子の可能性を伸ばすというのがあるべき姿だと強く信じてやみません。
学校における勉強とはそれを構成する一部分に過ぎないと思っています。一方で、学習塾や予備校というのは、その学校の目的の一部分を切り出して、勉強に特化した場所なのです。
この存在意義の違いを理解していて、成績を伸ばすために塾の先生ががんばっていることに非常に感謝している学校の先生も大勢います。
学校と塾とでは全く目指すものや性質が異なります。全く対立するような立場ではないし、むしろ、共存して子供達のために何が一番大切なのかを考えた行動・言動ができるようにしたいですね。
今回のお話は以上です。また次の記事でお目にかかります。ありがとうございました。
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