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理科の最強指導法(3) ―地学編B― 「フェーン現象の教え方」

小学生

2021/12/17

 フェーン現象を小学生に理解させよう!

講師の皆様こんにちは!

前回は気象単元で最も質問が多い、湿度計算について取り上げました。

(前回の記事:http://www.juku.st/info/entry/682

今回は湿度計算に次ぐ難問、フェーン現象について取り上げていきます。

 

特に生徒がやってしまう失敗・フェーン現象を計算問題だ!と思い、パターンとして解いてしまう

・フェーン現象そのものが理解できず、学習を放棄する

・フェーン現象と飽和水蒸気量、露点などの分野が異なるものであると考えてしまう

 

算数が得意な生徒ほど「要は計算でしょ!」といい、なんとなく解けてしまう子が目立つ分野です。

したがって、講師はただ○×をつけるだけではなく、理解度をいち早く見抜き、本質を理解させる必要があります。(実体験としては、フェーン現象をしっかり理解している生徒は10%程度です)

また、フェーン現象を実体験することは極めて難しいですが、そのメカニズムは「結露」から考えることができます。ぜひ、身近な現象とリンクさせて教えていきましょう。

 

授業で伝えるべきポイントおよび伝え方

フェーン現象は特別な現象だが、その仕組みは日常で起こっており、観察できる

 

そもそもフェーン現象とはなんでしょうか?

講師の方でも、フェーン現象そのものをよく理解されていない方もいるかもしれません。

なので、最初にフェーン現象の全体像を見ていきましょう。

(すでにフェーン現象の基礎は理解している!という方は、飛ばして次のセクションにお進みください)

フェーン現象の定義は以下の通りです。

山の風下側を異常乾燥異常高温の風が吹きおろす現象をいう。風上側を吹きのぼるときは断熱冷却のため水蒸気が雨や雪となって失われ,その際潜熱を受けとり,風下側をおりるときさらに断熱昇温することによって生じる。(百科事典マイペディアより)

これだけではなかなか難しいですね。

当然、生徒にこのまま伝えてもほとんどの子は理解してくれません。

そこで、最初に「どうして冬は日本海側で雪が降るのに、太平洋側では乾燥するんだろうね?」と聞いてみましょう。多くの生徒は、すでに社会で習っているので「山にぶつかって雪が降るから」と答えてくれます。

(このことも理解できていない場合、雪が降るメカニズムから教える必要があります。その際フェーン現象は後回しにしてもよいでしょう)

次に「どうして山にぶつかると雪が降るんだろう?」と聞いてみてください。

多くの生徒は答えられないはずです。この疑問に答えることから、フェーン現象の理解ははじまります。

 

そもそも、前回お話ししたように、飽和水蒸気量は温度が上がるにつれ、大きくなっていきます。

大気は上昇すればするほど冷たくなっていきますが、水蒸気量は場所により変化することはないので、飽和水蒸気量だけが小さくなる、すなわち分母だけが小さくなっていくため、湿度が上がっていくことがわかります。(ちなみに空気の上限である上空80kmでは、なんとー80度にもなっています!雑談代わりに話してあげると生徒はとっても喜びます)

その結果、ある地点(仮にAとします)において湿度が100%に達し、このAから上に空気が運ばれると、空気内の水蒸気が飽和し、液化あるいは固化します。つまり雲が発生するわけです。

さらに液体・固体の粒がくっついていくことにより重量が重くなり、雨や雪となります。

このメカニズム自体は、一般的な気象条件で毎日、毎時間おこっているものです

なお、生徒にこのことを理解しているかどうか、確認するとっておきの問題があります。

それは、「冬に窓ガラスに水滴がついている現象(結露)を見たことは誰でもあるよね?じゃあ、どうしてこれが起こるのか説明してみよう!」というものです。

より難易度を上げるのであれば、これに40文字ぐらいの文字指定を入れるとよいでしょう。

(解答例は最後にあります)

 

フェーン現象の特殊性は「○○○」にある

では、フェーン現象が特殊なのはなんでしょうか?

講師の皆様も一度、スクロールすることをやめ、一緒に考えてみましょう。

・・・

・・・

・・・

答えは「強制的に気流の向きが決まっていること」です。

本来、気流は自転・地温による影響により変化しますが、フェーン現象では山があるため、下降気流になるタイミング・上昇気流になるタイミングが決まっています。

そのため、強制的に雲ができたり、降雨・降雪が起こるわけです。

更に、山があることにより、高度の上がり幅と下がり幅が等しくなります(2000m空気が上昇したとすれば、当然2000m下がるわけです)

まずはこのことを徹底させてください。

フェーン現象を難しくとらえる生徒は、概念的にとらえてしまっています。そうではなく「要は空気が強制的に上がって、同じ高さだけ下がる現象なんだ!」と伝えることを忘れないでください。

 

必殺!断熱冷却の伝え方

さて、生徒はようやく「フェーン現象って簡単だね!」と言ってくれるようになりました。

ですがまだ気を抜いてはいけません。最大の難所が残っています。

なぜ上昇すると、温度は下がるのでしょうか?

そのキーワードが「断熱冷却」です。

 

実は、断熱冷却を教えるためには、きちんと膨張の考え方を理解していないとなかなかわかってくれません。

但し、この時点で教え直すのは時間的に難しいケースが多いかと思います。

そこで、この概念を理解させるために「必殺道具」を授業に持っていくとよいでしょう。

それは「制汗剤」です!

(できれば無香料が良いでしょう。香りつきだと不快になったり、気分が悪くなる生徒がいる可能性がありますので…)

おもむろに制汗剤を取り出し、思いっきり10秒間ぐらい噴射!

その後、すぐに缶を触らせると、「冷たいー」と騒ぎだしてくれます。

これを体感させた後に、「周りから熱が供給されない状態(缶)で、気圧が低くなると(ガスが出ると)、無理やり体積が引き伸ばされ(缶がへこんでいない)温度が下がる!」と教えます。これが断熱冷却です。

体験させることにより、「そんなことおこるの?」という素朴な疑問を払拭できるので、可能であればぜひ授業内で取り入れてください。いい授業中の息抜きになりますよ!(持ち込みが難しい場合は、家で帰って試してみるように伝えましょう)

 

それでは、フェーン現象に戻って考えてみましょう。

空気が上昇すると、気圧がさがっていきます。そのため、上昇していくにつれて空気が引き伸ばされていきます。つまり、断熱冷却が起こるわけです。これが上昇するにつれ、温度が下がる理由です。

また、逆の考え方から「周りから熱が供給されない状態で、体積が増えると、温度は上がる」ことになります。そのため、空気が下降すると温度は上がっていくのです。

 

雲ができると温度減少が緩やかになる理由

続いて、雲ができると温度減少が穏やかになる理由を扱っていきましょう。

( 多くの入試問題では、雲がない状態では100mで1℃の温度低下、雲ができると0.5℃の温度低下、と表記しています)

これは、「凝縮熱」がキーワードになります。

凝縮熱とは、「水蒸気から水になる(雲ができて、雨や雪が降る)ときに、発生する熱」を指します。

生徒には「水から水蒸気になるためには、熱を加える必要があるよね。だから、逆の反応をするときは熱が外に逃げていくんだ」と伝えればよいでしょう。

 

高度が下がると一気に温度があがり、湿度が下がる

頂上まで達し、高度が下がり始めると一気に温度が上がっていきます。

このとき、空気が保持している水蒸気量は変化しませんが、飽和水蒸気量は温度が上がるため大きくなっていきます。そのため、湿度が下がっていくことになります(具体的に前回の式を書きながら説明しましょう)

結果的に、最初の地点と同じ高度になったとき、温度が高く、湿度が低い風が吹くことになります。

このことをからっ風と呼ぶこともあります。

 

まとめ

わかりやすくもう一度まとめてみましょう。

ある地点の空気が、山脈などにより強制的に上昇させられることにより、温度が低下を始める。
これは断熱膨張により起こる現象である。また、温度が低下するに伴い、飽和水蒸気量が小さくなる

一定地点を超えると、飽和水蒸気量と空気に含まれている水蒸気量が等しくなる。
ここで雲が発生し、降雨・降雪が始まる。
また、ここから凝縮熱が発生することにより、温度低下がゆるやかになる

頂上に到達すると、温度低下が終わり、温度上昇がはじまる。
このとき、雲はできないため、温度は急激に上がる

ある地点と同じ高度になったとき、比較すると温度が高く、乾燥した風が吹く(からっ風)

 

また、教えるときのポイントは以下の3点です。

フェーン現象は身近に観察できる理論から成り立っている

理解する前提条件として、「露点」と「膨張」について、しっかり理解する必要がある

フェーン現象は計算問題だけで扱わない

次回は計算問題を扱うとともに、フェーン現象に関する応用課題を取り上げていきます。
今回「なるほど!」と思った方は、ぜひ次回もお読みください!

 

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