「物理が苦手」は、あなたの工夫で変えられる!
高校物理は、文系の生徒に限らず、
理系の生徒の中でも苦手意識を持っている人の多い科目だと思います。
応用問題の演習を何度も繰り返しているのになかなか点数が伸びない、と悩んでいる生徒も大勢いるでしょう。
理系の生徒の場合には、志望する大学の必須の受験科目として物理が含まれていることもあるので、
理系の生徒を指導する講師にとっては、
高校物理という科目に対して、苦手意識を作らせないような指導が重要になります。
本記事では、
物理を苦手と感じさせないための基礎的な指導方法の工夫
を、基礎から応用まで、下記の5段階で順を追っていくつか紹介します。
以下に紹介するたった5項目に気を付けるだけで、高校物理が格段に指導しやすくなるはずです。
1,記号と用語の理解を確認する
まずはじめに考えなければならないのは、
指導している生徒が物理に登場する記号や用語をどれだけ理解しているかということです。
高校物理では、1つの問題を解くためにも数多くの公式を使わなければなりません。
そしてその公式の中には、さらに多くの文字・記号が使われています。
F,m,a,v,t,x,g…
公式に登場するたくさんの文字を見るだけでうんざりしてしまう生徒も少なくありません。
教える側である私たち講師にとっては見慣れた公式や記号でも、
物理を学び始めたばかりの生徒たちにとってはまだなじみのないものなのです。
私自身、高校物理を学び始めたばかりの時はたくさんの記号や公式に面食らってしまうことが多かったです。
使われている記号の意味を理解しないまま公式を暗記しても、応用問題を解くための実力は身につきません。
それぞれの記号・文字式が何を表しているのかをしっかりと理解してもらう必要があるでしょう。
「F=maという公式が出てきたけど、ここでのF,m,aはそれぞれ何を表しているかな?」
「大文字のTは張力、小文字のtは時間を表すんだったね。」
というように、基本的な部分であっても、まぎらわしい記号が出てくるたびに生徒に確認してみましょう。
新しい公式などが出てきたときは、ただ暗記させるのではなく、
生徒が公式やそれぞれの記号の意味をきちんと理解できているのか確認してから、
問題演習に進んだ方が良いです。
公式の導出を生徒自身の手でやってもらうのも効果的です。
また、物理の基礎的な部分を学ぶにあたり基本的な公式と同様に重要なのが、用語の定義です。
用語の理解をあいまいなままにして問題演習などをこなしても、
複雑な解説をほとんど何も理解することができないという状態になってしまいます。
「速度と加速度の違いは説明できるかな?」
「重力による位置エネルギーは物体が高い位置にあるほど大きく、運動エネルギーは物体の速さの2乗に比例するものだったね。」
などなど、生徒が混乱しやすい部分をわかりやすく解説できるようにしておく必要があります。
生徒が物理を勉強することに慣れていないうちは、
ひたすら問題演習とその解説ばかりを繰り返すのではなく、
記号の意味や用語の定義など基礎的な部分をしっかりと理解できているのか
を逐一確認しながら丁寧に指導していくことが大切です。
生徒から質問があった場合にも端的に答えられるよう、指導の際には講師自身も十分な準備をしておかなければなりません。
2,作図のテクニックを身に付けさせる
記号や用語の理解度の確認が済んだ後は、
問題自体を理解するための作図のテクニックについて指導していきましょう。
皆さんは作図は得意でしょうか?
実は私自身物理を学び始めたときは、図を描くことが苦手で、
問題を解くときも面倒くさがって作図を省いてしまうことがしばしばありました。
しかし、問題が複雑になっていくとむしろ図を描かずに解く方が時間がかかってしまうようになり、作図に慣れていなかった私はかなり苦労してしまいました。
物理の問題をスムーズに解くことができるかどうかは、問題文に書かれている情報をいかに正確に把握できるかにかかっています。
最初に問題文を読み、与えられている情報が何なのか、問題で求めなければならないものが何なのかを整理する必要があります。
複雑な問題を解いていくためには、
問題文に書かれた状況を具体的にイメージするのに有効な作図のテクニックを身に付けることが不可欠です。
多くの情報を1つの図にまとめ、問題の全体像をとらえやすくすることができるのです。
そして、物理の問題を解くための作図においてポイントとなるのは、
生徒自身が自分で描いた図の見やすさです。
当たり前のことを言っているように思われるかもしれませんが、作図が苦手な生徒の中には図を小さく書きすぎてしまうためにごちゃごちゃして必要な情報が見づらくなってしまっていたり、
ベクトルの角度が不正確すぎるためにベクトルの合成・分解の方向を勘違いしてしまったりしている場合もあるのです。
解説を聞けば理解できるけれど自力ではなかなか解答にたどり着くことができないという生徒のほとんどが、作図が上手くできないために途中でつまずいてしまっています。
「力のベクトルを表す矢印は、ある程度大きさまで忠実に表現してみよう」
「問題用紙の余白いっぱい使って図を描いてみよう」
といったように、問題の解説をする際には、
必要な作図の仕方まで指導できるようにしておくと良いでしょう。
3,導出過程は言葉で詳しく説明する癖をつけさせる
作図によって問題を解く基礎的な力が付いた後は、実際の試験で得点を伸ばしていくために、
解答の導出過程
について考えていきましょう。
答えを導くために必要な式が多く、計算量が膨大になってしまうような問題では、
複雑な計算過程で生徒が混乱してしまう場合があります。
また式が複雑になっていくに従い、
計算を最後まで行い答えを出すことができたとしても、
後から自分の解答を見直したときに、
どんな公式や定理を使って計算式を導いたのかわからなくなってしまう場合もあります。
上記のような混乱を避けるためには、
問題の解答の中に計算結果や計算式だけでなくその計算式を導くに至った過程、
つまり、
どんな公式やどんな定理を何に対して適用したのかといった具体的な内容を
言葉で記述しておく必要があります。
生徒が自分自身の解答を見返すことは、問題の理解度を高めることに非常に役立ちます。
さらに、導出過程が具体的に書かれた解答をみれば、
生徒がどんなふうに問題を考えて答えを導き出したのか、
また、答えが間違っていた場合にはどこでミスが生じてしまったのか、
講師がすぐに把握することが可能です。
「解答のこの部分で、電流の向きの正負が逆転してしまってるね。」
「3行目から4行目の間で計算ミスをしてしまってるね。」
という風に、迅速に具体的な解説ができます。
また、物理の入試問題の中には、導出過程を自由に記述させる形式のものもあります。
計算式と結果だけを羅列するのではなく、
問題を解くために使用した公式や定理を正確に書いておくことによって、
計算ミスをしてしまってもかなりの部分点を稼げる場合もあります。
日ごろ問題演習をしているときから、導出過程を詳細に記述しておく癖をつけるように指導すべきでしょう。
4,複雑な文章題は問題の流れを理解して解説をする
問題の導出過程を記述する癖をつけ、基本問題の演習に慣れてきた生徒には、さらに複雑な応用問題へとステップアップさせていきましょう。
複雑で計算量の多い長文の文章題では、1つの大門の中で小問(1)、(2)、(3)などと段階的に分けられているものがあります。
このような問題形式の場合、
・先の小問が次の小問を解くためのヒントになっていたり、
・導き出した先の小問の答えの値そのものを用いて次の小問を解くことができる
といった構成になっていることが多いです。
こういった問題の流れを理解しておくことができれば、
難解な文章題でも比較的取りかかりやすくなるでしょう。
文章題の解き方の指導をする際にも、生徒に問題の流れを意識して解いてもらうことが大切です。
一見すると作図に手間がかかりそうだったり、計算量が多く面倒そうだったりする問題でも、
前の小問の解き方や結果を手掛かりにすると思いのほか少ない手数で解けてしまうということを理解してもらいましょう。
「(2)で求めた合成ベクトルを、(3)の図に当てはめるとどうなるかな?」
「(1)で用いたのと同じ公式を、今度は2つの物体に対して拡張してみよう。」
段階的に小問に分けられている長文の問題では、
上記のように常に前問との関係性を考えながら問題を解くように指導しましょう。
5,生徒の実力に合った解法を選ぶ
ここまでの段階を追って指導をしてきた生徒については、それぞれが物理に対してどの程度の理解度を持っているか大部分を把握できていると思います。
最後の段階では、各生徒の実力に合った解法を教えることの重要性について説明します。
高校物理の問題は、
1つの問題に対して正解にたどり着くまでの解法が何種類も存在する、という場合が多いです。
問題集をみると、別解が数多く載っている問題をよく目にするかと思います。
問題によっては、解法によって計算量に大きな差が生じたり、わかりやすさが違ってきたりすることがあります。
たとえば、高校物理で扱う力学の問題を、微分積分を使った解法で解くと、変位や速度を逐次求めて代入していく方法と比較してかなり単純な計算のみで答えを導くことができます。
しかし、そうであるからといって、
生徒全員に微分積分を用いた計算量の少ない解法で教えた方が良いかというと、一概にそうとはいえません。
たしかに力学の問題を解く場合には、微分積分を用いれば格段に少ない計算量ですみます。
理解度が十分ある生徒に関しては、その方法で指導した方がかなり効率が良いと思います。
しかし、微分積分の解法はその仕組みを正確に理解し、式を導出するまでが非常に難解なのです。
私自身も、高校時代に応用レベルの物理参考書で微分積分の解説を読みましたが、
正直ほとんど理解できず、逆に混乱してしまいました。
そもそも高校物理の範囲内の問題は、微分積分を使わなくてもすべて解くことができます。
微分積分の仕組みが十分に理解できていない場合には、
無理に難解な解法を用いず地道に解いていった方が、計算量が増えてしまったとしても確実に得点できるかと思います。
全ての生徒に同じ解説をするのではなく、
各生徒の理解度をしっかりと把握した上で、それぞれにあった解法を選択し、指導していくことが大切です。
高校物理の指導法の工夫 ―まとめ―
今回は、苦手意識を作らないための高校物理の指導法として、
下記の5段階の項目について順を追って紹介してきました。
1,記号と用語の理解を確認する
2,作図のテクニックを身に付けさせる
3,導出過程は言葉で詳しく説明する癖をつけさせる
4,問題の流れを理解して解説をする
5,生徒の実力に合った解法を選ぶ
それぞれの項目で紹介したポイントは、
物理を指導する上でどんな分野についても共通して言えることだと思います。
高校物理は、1度苦手意識を持ってしまうとそれを払拭するのは非常に難しく、指導するのもなかなか大変な科目ではないかと思います。
しかし、基本的な部分さえ理解することができれば、特に理系の生徒ならば興味を持って応用のレベルまで勉強することのできる科目であるはずです。
生徒が物理全般を苦手と感じるか得意と感じるかは、指導する講師によるところが大きいと思います。
高校物理を指導される講師の方は、
ぜひ今回紹介した指導法を頭の片隅に置き、丁寧な指導を心がけてみてください。
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