論述こそ世界史の本質
センター試験では世界史は選択肢問題ですが、
難関大学を目指そうとなると、どうしても「論述の壁」を超える必要があります。
慶應や国公立のように論述問題を出題するところもあれば、東大や一橋のように論述のみを出題する大学もあります。
もちろん論述問題は配点が高いので、取りにいくに越したことはありません。
ですので、今回の記事では、
世界史の論述の指導方法
について解説していきたいと思います。
ただ、指導法を述べていくのではなく、「具体的」に、そして、4つのポイントと出題形式を紹介していきます!
形式を確認しよう
まずどのような形式があるのかを確認してみましょう。
文字数の関係上、問題を本記事に掲載することはできませんので、以下のサイトを御覧ください。
世界史教室・大学受験(http://www.ne.jp/asahi/wh/class/index.html)
問題形式の分類の仕方は様々ですが、今回は、
その問題の”質”に焦点をあてて分類し、それぞれ何が求められているかについて解説します。
①内容を問うもの
何かしらの単語をキーワードとして、その内容を問うもの。
多くの大学が好む形式です。
例えば、「フランス革命って何ですか?」「明王朝が最初にしたことは何ですか?」といったものです。
一問一答方式のように一筋縄ではいきません。
出来事をきちんと体系的に覚えていることが求められます。
つまり、何かしらの単語を聞いたらすぐにそれにまつわる話ができるぐらいになっているということです。
②経緯を問うもの
歴史的事件の経緯を問うものです。
同じく多くの大学が好みます。
そしてテーマとしては、戦争のきっかけと結果を問うものは多いように感じます。
「百年戦争がどのようにして起こり、そしてどのような結果に終わったか」といった問題が、具体例として挙げられます。
この形式で求められることは、①とほとんど似ていますが、
出来事を体系的に覚えることに加え、国家間の空間的な広がりと歴史的経緯の時間的な広がり(縦と横の関係)をきちんと把握している必要があります。
例えば百年戦争の問題の場合、イギリスとフランス、それぞれの国内で何が起こっているのかをきちんと把握していなければいけません。
③意義を問うもの
何かしらの単語のの意義を問うもの。
旧帝大(特に京大・一橋)が好む形式です。
例えば「魏晋南北朝時代における仏教の意義は?」「トゥール・ポワティエ間の戦いの意義は?」といったものです。
①と異なり、間接的な影響について言及しなければなりませんので、難易度はぐっと高まります。
”意義”とは、言い換えてみれば「なぜその出来事が大切といえるのか?」「So what?」なのです。
受験生は世界史の表面を暗記するだけではなく、「なぜその出来事を学ばないといけないのか」を深く考える必要があります。
④比較考察を問うもの
東大が好む形式です。
もはや大学のレポートというレベルです。
歴史的事象を全て暗記していることを前提に、それらの知識を用いて新しい論理を構築してくれという、なかなかにハイレベルな問題です。
これが難しいところは、教科書に答えが書いていないということです。
イメージで言うなれば、「人間とチンパンジーの共通点と相違点を解答せよ」というような問題です。
教科書には人間とはなにか、チンパンジーとはなにかについては書かれているのですが、わざわざ共通点や相違点まで書いていません。
その点について受験生に考えさせようとするのが、この形式です。
具体的な指導方法について
形式をひと通りお伝えしたところで、次は具体的な指導方法を紹介します。
論述を念頭とした授業は、通常の時の授業と多少異なることがわかるかと思います。
普段の指導方法
論述を受ける生徒には、通常の授業形式をかなり変更する必要があります。
「次は○○ね。○○っていうのはー」
というような、単語を教えて、その説明をするという授業スタイルは絶対にだめです。
なぜなら、論述で聞かれることは体系的な事柄だからです。
ゆえに、あくまで授業は何かしらのテーマについて、それを体系的に教える必要があります。
その際、以下の4点は必ず含んでください。
- なぜ起こったのか
- どのような経緯を辿ったのか
- 結果どうなったのか
- なぜこの事件が歴史的に重要か
さらに、毎回の授業では小テストを行うこと。
ただし、その小テストは単語を答えさせるようなテストではありません。
というより、小テストのための紙もいりません。
ただ授業の冒頭でこう言ってください。
「さて、百年戦争について説明してみてください」
そして、その生徒に前回の授業内容を5分間のプレゼンをしてもらうのです。
講師はそれを聞いて、ポイントをきちんと抑えているのかを確認しつつ採点しましょう。
直前期の指導方法
プレゼンを繰り返す
受験の直前期には生徒にアウトプットを繰り返してもらうことです。ワードを1つポンと与えられてそれをきちんと説明できるのかどうかのチェックを行うこと。いわゆる復習ってやつです。
変化球の練習
しかし入試で本当に難しいのは、出来事をきちんと説明しきることではありません。その知識を用いて、問題を解答するという行為そのものが難しいのです。
どういうことか。
以下の図を御覧ください。
授業ではテーマをいくつか学びますが、それぞれのテーマはいくつかの出来事が組み合わさって成り立っています。
しかし、入試の際、問題が運良く授業でやったテーマと一致しない限り、どうしても自分で新しく出来事を組み立てる必要が出てくるのです。
今回の例では生徒はテーマ1とテーマ2を学習しており、何かしらの答案を書こうとした際、両テーマの中にある出来事を拝借していることを表しています。
生徒は習ったテーマをそのまま用いず、それを因数分解して新しく組み立てる技法をも習わなければならないのです。
直感を磨く
直前期においてもう一つ大事なことは、直感を磨かせることです。
例えば入試問題に導入文があり、そこでスペインの大航海時代について書かれていたとします。そして問題はこれ。
「トマトの起源について記述せよ」
知るかよ、ってなるかもしれません。
世界史を習っていたのにいきなりトマトです。
しかしこのとき重要なのが、直感とつなぎの作り方を知っているかどうかです。
実際にその知識がなくとも、
スペイン+大航海時代+トマトの起源
となると、「スペインが世界のあちこちを征服していたときに、トマトが世界に広まった」という推測はできなくはないのです。
さらに、「世界のあちこち」の代表例は南米ですので、トマトの起源を南米、というところまで推測して、記述してしまってもいいのです。
最も良くないのはわからないから書かないということ。
直前期にこの癖を正すことも、塾講師の役割です。
なぜ”世界史”という科目があるのか
なぜ世界史という科目が教養として位置づけられるのでしょうか?
なぜ私たちは歴史を学ぶ必要があるのでしょうか。
私は、その答えは世界史に”論述”という形式があることに表れていると思っています。
確かに歴史的事件を一問一答で覚えていたらありがたみを覚えることはないかもしれませんが、それを体系的に、そしてその意味までも理解していたとしたらどうでしょうか。
「トゥール・ポワティエ間の戦いの意義は、カール・マルテルがイスラム軍を破った戦い」
内容説明としてここで終わってしまうとあれですが、
「そのおかげで、①ヨーロッパのイスラム化が防がれた②教皇がカール・マルテルに接近するきっかけ→カール・マルテルがキリスト教の守護者になった」
ここまで知っていると、今あるヨーロッパのキリスト教社会の起源を理解できたということにもなります。
そうなると少し面白くないですか?
世界史は体系的に学ぶことに意味がある、論述問題はそれを気づかせてくれます。
【あわせて読みたい記事】