GDPってなに?
今回紹介するのはGDPです。
個人的にGDPは政経の中でもずば抜けて重要な地位を占めており、これを知っているかどうかで将来を左右するのではないかと思ってしまうぐらいです。
…さすがに、少し言い過ぎかもしれません。
しかし、GDPは政経のみならず、普段のニュースや経済の話を理解するために知る必要があるということに、嘘はありません。
それにGDPを知っているということは、そこから派生して”物の価値”について学ぶことにもなるのです。
GDPの定義
まずは定義から始めましょう。
GDPを和訳すると、国内総生産となります。
文字通り、「国内で合計どれだけ生産活動を行ったのか」を表す指標なのです。
ポイントは、”生産活動”とはなにかということ。
まずはこれを理解しないといけません。
では生産活動とはなにか?
文字面を捉えれば、「小麦粉を作る」「パンを作る」「お米を作る」そういった活動を指します。
何かを”作る”んですよね。
ただ問題なのは、それらを”どうやって測定するか”ということなのです。
小麦粉を作った人とお米を作った人、どちらの方が”より生産した”と言えるのでしょうか。
小麦粉農家の事情
この農家は小麦を生産し、とある工場(小麦粉工場?)に500万円で販売することに成功しました。しかし、この農家は小麦粉を生産するために、田んぼのレンタル費・人件費をけっこう使い込んでいて、それらの費用は合計すると350万円。つまるところ、彼らの手元には150万円だけ残ったのです。
パン職人の事情
このパン職人は少し特殊で、パンそれ自体はおいしくないのですが、より少ない材料で生産することを得意としています。パンをたくさん生産し、300万円で販売することに成功しました。しかし材料費はたった100万円。彼の手元には200万円も残ったのです。
「小麦粉を作った人」と「パンを作った人」、どちらの方が”よくやった(より生産した)”と言えるのでしょうか。
結論をいうと、パン職人の方が”よくやった”と言われます。
生産とは言い換えれば、”その人がどれだけの付加価値を生み出したか”ということなのです。
農家は確かに高い額で販売することに成功したかもしれませんが、その分たくさんの”消費(価値あるものを使うこと、生産の反対)”をしていたため、評価が下がってしまうことになったのです。
総生産額とは
では、この連鎖をつなげて見ていくとどうなるでしょうか。
農家、小麦粉工場、パン職人。それぞれが何かしらの生産活動を行い、何かしらの消費活動を行っています。
生産とは、すなわち、”付加価値を生み出すこと”です。
農家は何もない状態から10万円の小麦を作りました。ゆえに、農家は10万円分の生産をしたといえます。
工場はその10万円の小麦を使い、30万円の小麦粉を作りました。ゆえに工場はその差額である20万円分の生産をしたと言えます。
職人はパンを作りましたが、まだ販売をしていません。ゆえに生産もしていないことになります。
結果的に、農家の生産した10万円と工場の生産した20万円で合計30万円の生産が行われたということになります。
これが総生産です。
すなわち、国内総生産とは、国内で生み出された付加価値の全ての合計といえるのです。
三面等価の原則
GDPに関連する重要なキーワードとして三面等価の原則というものがあります。
GDPは国民総生産といいますが、あえて国民総分配や国民総支出という言葉を作ったとするならば、それらの額は一致するはずだというのです。
三面等価の原則は文字面を覚えるだけならばそんなに難しくないでしょうが、その背景を知っておくことはマクロ経済学の基礎を学ぶ上で、さらに生徒が国の経済の”雰囲気”を理解する上で大変重要です。
生産:どれだけの付加価値を生み出したか
分配:付加価値がどこに行き渡ったか(収入とも言えます)
支出:それぞれの主体がどれだけの支払いをしたのか
なぜこの原則が成り立つのか?
この原則が成り立つ理由は次の通りです。
例えば次の図を見てください。
この国には家計・企業しか存在しないとしましょう。
通常でしたら政府も存在します。
家計は労働力を企業に提供し、代わりに賃金を得ています。
一方で企業は家計に商品を提供し、代わりに対価を得ています。
これを整理すると以下のようになります。
家計の賃金(分配)=企業の支払い(支出)
家計の購入(支出)=企業の収益(分配)
よって、この関係性全体を見れば、総分配と総支出は同値になるはずなのです。
では、総生産がなぜ総分配や総支出と同じになると言えるのでしょうか?
それは”生産”が”付加価値をどれだけ生み出したか”という点に注目すればわかると思います。
商品に価値が生み出されるためには、その商品が実際に誰かに購入される必要があります。
誰も買わない商品に価値などありません。
ということは、
”誰かがその商品を購入した額”=”付加価値の額”
となるのです。
すなわち、生産額は分配額と一致するはずなのです。
上の例を用いれば、企業は10万円の商品を販売したので、10万円の生産を行ったと言えます。一方で家計は10万円の労働力を提供したので、10万円の生産を行ったと言えます。
以上を整理すると...
生産:家計の労働力の価値(10万円)+企業の生産した商品の価値(10万円)=20万円
分配:家計の賃金(10万円)+企業の商品による収益(10万円)=20万円
支出:家計の消費(10万円)+企業の賃金の支払い(10万円)=20万円
GDPとGNP
GDPと似た言葉としてGNPというものがありますが、これは国民総生産と呼ばれるものです。
GDPが「国内でどれだけの生産が行われたか」というのに対し、「国民がどれだけの生産を行ったのか」というものです。
何年か前まではGNPが国の豊かさをあらわす指標として用いられていました。
ではなぜ変化したのでしょうか?
違いは国内か国民かというところにあります。
今はグローバル化が進んでいるということで、日本国民が海外に出て活躍するというケースは少なくはありません。
しかし、国民が海外で活躍した場合、その経済活動はどこに寄与するでしょうか?
例えば日本の大企業がタイに工場を移転して、そこで生産活動を行ったら...
もちろん、それはタイの経済に寄与することになります。
もしGNPの指標を用いていると、タイでの工場や経営者の経済活動も含んでしまうことになります。
ゆえに、「国としての豊かさ」を測るためには国内だけを見た方がいいということで、GDPを用いるようになったのです。
ちなみに、
GDP=GNP-海外からの純所得
なる関係式が成り立ちます。
また、海外からの純所得は、国外に住む国民の所得から国内に住む外国人の所得を引いたものです。
まとめ
GDPとは国の豊かさを表す指標...
なぜこう言われるのかは理解できると思います。
GDPとは総生産を表す指標であり、生産とは”付加価値をどれだけ生み出したか”なのです。
そして、付加価値とは”消費者が実際に購入した額”であります。
その国が、他の人が欲しいと思う商品をどれだけ作ったかを表すのがGDPなのです。
これがわかるだけで、色々と思考を広げることができます。
GDPの額の大きさからその国の産業について考えるきっかけになりますし、GDPの成長率からその国の調子を伺うこともできます。
GDP1位の国はアメリカ→アメリカが作っているみんなが欲しいと思う商品とはなんだろう?
中国のGDP成長率は凄まじい→中国はみんなが欲しい商品を次々と作り上げている...本当に?
というわけで最後にこの記事を読んでおくと面白いかもしれません。
(2015年8月6日)中国経済成長率、実際は公式統計の半分以下か 英調査会社が試算http://jp.reuters.com/article/2015/08/07/china-economy-data-idJPL3N10I27X20150807
この記事の真偽がいかほどかはまだわかりませんが、GDPに関する記事は常に出ているので、それを材料に生徒の関心をひくのも一手かなと思います。ぜひ社会科の授業に生かしていただければと思います。
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