特集記事のサムネイル画像

合格指導体験記「読む」篇〜「対話」と「観察」で根本原因を探る

指導法記事

2021/12/17

「対話」と「観察」で、できない原因を探る

塾講師として最も大事なのは、「できなかったことをできるようにすること」です。当たり前のようですが、これは中々難しいもので、1人1人知っていることや考え方、感じ方が違いますから、まずはそれを知ることからはじめなければ最適な方法にはたどり着けません。
 
個別指導や少人数制ならある程度授業中に掴むことが出来ますが、大人数への授業では中々難しいものです。しかし、講師が常にアンテナを張っていることで、少しでも生徒への理解を進めることは可能です。私の場合はとにかく「対話」と「観察」を大事にしています。今回は、「対話」と「観察」によって生徒の問題点を発見し、受験に間に合ったケースを紹介します。
 

範囲のない試験が極端に苦手だった生徒

かつて担当した生徒の中に、小テストや試験範囲の決まっているテストでは良い点数を取るのに、模擬試験など試験範囲がなくなると極端に成績が下がる生徒がいました。あまりに極端なので各教科担当も首をかしげていて、カンニングを疑うスタッフまでいました。過去の成績表を調べてみると、特に社会科と理科の一部でその傾向が強く、私は「記憶」に問題があるのではないか、と考えました。そこで、授業中にその生徒を含む何人かを指名してテキストの音読をさせたところ、ある事実を発見することになります。
 
その生徒は読めない文字をすべて読めないまま暗記していたのです。読めないので音から意味を推理したり、知っている知識と繋げることが出来ず、それで忘れやすくなっている可能性がありました。
 
そこで、私は読めない文字にすべてフリガナをつける習慣をつけさせることにしました。最初の1ヶ月は授業前後に時間を取って、読めない文字に線を引き、読みを想像させ、正解を教えて書かせ、実際に音読させました。次の1ヶ月は、私が教えるのではなく、辞書や用語集などで正解を調べて書かせるようにし、3ヶ月ほどで語彙が整ってきました。テストでの結果が出るまでには数ヶ月かかりましたが、成績も安定し、受験では無事第一志望に合格することが出来ました。
 
授業中に対話が出来ていれば、すぐに発見できたのでしょうが、集団授業では一方的な説明に終始したり、特定の生徒としか言葉を交わさない講師も多く、意識していなければ中々見つけられないことも考えられます。
 

対話はバッチリなのに、ペーパーテストが苦手だった生徒

もう1つ、似たケースで、対話をしている分には本当によく出来るのですが、テストになると見当違いの解答ばかりを書く生徒がいました。特に国語において顕著で、解答が質問に対応もしていないですし、書いていることもまるで論が違うのです。対話での聡明さと解答欄のあまりのギャップに、保護者も講師たちも頭を抱えていました。私は、その生徒の解答を観察して、たしかに課題文の論理や主張は読み取れていないのに、文法も正しく論理的な文章であることに目が行きました。つまり、読み取る時点で何らかの問題が起こっているはずだ、と当たりをつけました。
 
そこで、その生徒が問題を解いている様子を観察していたところ、あることに気がつきました。眼の動きが変なのです。あっちを見たりこっちを見たり、テスト用紙の長文を滅茶苦茶に行き交っているのです。その時の解答も、使っている言葉は良いのですが、いつものように見当違いの解答でした。対話で聞いてもやはり読めていないようです。そこで、課題分と問題文を音読してもらったところ、「あ、そうか!」と声を上げました。もう一度さっきと同じ質問をすると、しっかり正解を答えます。ここで分かりました。その生徒は「黙読」ができでいなかったのです。
 
音読をすれば、文章は連続して論理的に頭に入ってきます。だからちゃんと筆者の論理や出題者の意図が理解できます。しかし、黙読だとあっちこっちに目移りしてしまって、順番に言葉や文章が頭に入ってこず、論理が滅茶苦茶になってしまうのです。そこで言葉だけを繋いで自分で論理を推理して構築していたわけです。その後、声を出さずに口だけ動かして音読をする練習から始め、1ヶ月ほどで、線を引きながら黙読ができるまでになり、その結果全教科の成績が上がり、受験にも無事合格しました。
 
今回は、音読・黙読の基礎訓練をサポートすることで合格まで持っていけたケースを紹介しました。このような根本的な問題の場合、早期発見するに越したことはありません。受験まで時間がある生徒ほど、アンテナを張って観察・対話をすることが大事です。

キーワード

関連記事

新着記事

画面上部に戻る