『二月の勝者』から見える、塾業界のリアル
こんにちは。プロ講師の黒磯直行です。
先日、来年度の出講についての打診がありました。冬期講習、共通テストなど、受験終盤を迎えていますが、運営側ではもう来年の構想ができつつある時期でもあります。
プロ講師として初めてこの業界に踏み入れる際の入り口として塾の求人に応募するというのはよくあることだと思いますが、採用も含めて来年度に向けた動きはすでに始まっています。
新たな環境を模索している方や、先日の池末先生の記事のとおり、掛け持ちをしよう/増やそうとしている方は、早めの活動を心がけ、面接等のアポや準備をしてください。力のある先生であればあるほど、初年度からの構想に入り込むことができる可能性があります。逆に、時期を逸してしまうと、少なくとも初年度においては「埋まらなかったコマの穴埋め要員」ということになり、思うようにコマ数の確保や出講日の調整が難しくなることも想定できます。
塾講師ステーションの求人も参考にしながら、ぜひ、ご自身のライフワークを構築してほしいと思います。
黒磯 直行 くろいそ なおゆき
新卒で早稲田アカデミーに入社。営業部門長などを歴任し、その後スクールIEにて個別指導塾の運営マネージャー、Z会進学教室およびZ会東大進学教室にて講師として小中高に渡り幅広く指導を続ける傍ら、私立学校教員としても活躍。講師としてのキャリアは当然のことながら、運営サイドでの実務経験も豊富。20年以上塾業界に身を置いている超ベテラン講師。「社会人としての講師育成が業界には必要だ」との思いのもと、後進育成にも積極的な姿勢で取り組んでいる。
目次
・ドラマ「二月の勝者」、見ましたか?
・「君たちが合格できたのは、父親の「経済力」そして、母親の「狂気」(第1巻1話)
・「課金ゲー上等!!」(第2巻15話)
・「塾講師は教育者ではなく、サービス業です」(第2巻15話)
・一生懸命にならなくていいですよ。Rクラスは「お客さん」ですから。(第1巻4話)
・なんで勉強ができるって特技は認めてもらえないんだろうね?(第2巻12話)
・最後に
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ドラマ「二月の勝者」、見ましたか?
さて、先日、日本テレビで放送されていた「二月の勝者ー絶対合格の教室ー」というドラマが完結しました。
リアルな描写で中学受験をテーマにしたもので、原作の漫画もヒットしてます。一般には「これから中学受験を始める人や、今、中学受験の真っただ中の方に参考になる」と言われるのですが、いやいや、業界を知るにももってこいの作品です。
実は、私、このドラマを全話視聴し、また、漫画も発行されている分は全て読んでいます(笑。そんな暇がどこにあるんだ、と突っ込まれそうですが…)。この業界がかなりリアルに描かれており、共感しながら、また、自分の仕事を見つめなおすことができる数少ないメディアです。
また、これからこの塾業界に足を踏み出そうとしている皆さんにも、(多少のデフォルメがあるとはいえ)業界を垣間見れる作品だと思っています。さらには、テーマは中学受験ですが、高校受験、大学受験の塾・予備校にも通ずる場面も多々あります。ぜひ一読あれ。
そんな「二月の勝者」より、作中の名言と言われるセリフから、私の塾業界でのリアルを検証し、また、そこから得られる教訓、また、我々プロ講師が持ち合わせている/持ち合わせるべき感覚をお話していきます。
「君たちが合格できたのは、父親の「経済力」そして、母親の「狂気」(第1巻1話)
おそらく、「二月の勝者」で一番有名なセリフです。「桜花ゼミナール吉祥寺校」の校長である黒木先生が発言したものですね。ドラマでは、柳楽優哉さんが演じていました。
原作漫画だと第1巻第1話早々に登場するこの作品を代表する言葉です。ちなみに、この黒木先生は、中学受験の名門である「フェニックス」の講師でした(ドラマでは「名門塾ルトワック」と名称が変更されています)。
「課金ゲー上等!!」(第2巻15話)
これも有名です。受験生の母親である香織(ドラマでは星野真里さん)が、受験に非協力的でスマホばかりいじっている夫に対し、スマホゲームへの課金を皮肉って「塾にすでに課金し続けているのに何をやっているんだ!」という意味で言い放ったものです。「痛快」とネットでも反響が大きかったセリフです。
考察:塾とお金
この2つの有名なセリフから見て取れるのは、「塾通いには相当のお金が掛かる」ということです。
私は早稲田アカデミーで運営側の人間として携わってきました。親が1年で幾らくらい支払っているのか、また、それを払うのがいかに大変なのか、身に染みて感じてきました。時々、支払期日に間に合わず、催促の電話をすることもあったのですが、本当に足りなくて「どうしても待ってくれ」と泣きつかれたこともありましたし、滞納が原因で退会処分にしなくてはならない場面もありました。
私が、講師として知っておいてほしい(認識してほしい)ことは、
- 目の前にいる生徒は、お金を支払ってそこにいるのだということ
- そのお金はサービスを受けている本人ではなく、親が支払っている事実
この2点です。
当たり前だ、と思う方も多いと思いますが、しかし、実際に講師に「自分の授業はいくらなのか/月謝・指導料は1授業あたりいくらか」と聞くと、何とも答えられない講師がほとんどなのが実態です。私の経験上、2割くらいの方しか正確に答えられないです。
これは、プロ講師の場合、複数で授業を掛け持つことが多かったりして把握できていない場合や、そもそも興味がない場合もあります。また、そういった「商取引(ノルマや売り上げなど)や顧客とのやりとり」が苦痛で、この業界に入ってきたという方も少なくないので、そういった面倒なことにはふたをしているのかも知れません。
しかし、その把握している2割の講師は、人気や評判、指導力、はたまは人間性においても長けていることがほとんどです。社会人として、自分のビジネスがどのように成り立っているのか、そして、その料金に対する対価として何を提供できるかを考えることができるからです。どんな思いで捻出されたお金が子供たちをそこに座らせ、そして私たちを「先生」にしてくれているのか、そんなことを考えたら、欠席した子に対して「欠席したんだから知らない」とはならないはずだし、自分が準備不足や知識不足のまま教壇に立つなんてことは絶対にできません。
「塾講師は教育者ではなく、サービス業です」(第2巻15話)
黒木先生のセリフなのですが、黒木先生の思想が見える場面です。
私の最初の記事でも触れましたが、塾・予備校と学校の違いはそこにあります。しかも、我々が提供しているサービスで手にできるものは、「学力」という目に見えない実態のないものなのです。何かしら目的を持って、そこに通っている(通わせてくれている)わけですから、それを達成できるよう、我々講師の意識も改善していかなくてはならないと私は常に考えています。
一生懸命にならなくていいですよ。Rクラスは「お客さん」ですから。(第1巻4話)
集団指導塾や予備校では、学力別や志望校別のクラス分けをすることがほとんどです。このセリフは、そんなクラス分けされた中で成績最下位のRクラスの担当になった、新人講師の佐倉先生(ドラマでは井上真央さん)に対して、黒木先生が言うものです。黒木先生曰く、お客さんの真意は「とりあえず通って、授業料さえ落としてくれればいい」という生徒のことだそうです。
考察:本当に「お客さん」として見ている?
これはリアリティにかけると感じています。担当している先生で、どんな成績であれ、通っている自分の生徒を「お金を落としてくれればいい」と思って指導しているというのは聞いたことはありません。
ただ、それは我々運営にかかわらない「講師」という立場からみた場合のリアル度が低いというお話です。運営側からみると、黒木先生が言う「お客さん」としてみなしている、というのは少ないながらもあるのも事実です。特に、大手ではない、こじんまりとした個人塾の場合、目の前の入会や今後入るであろう月謝の計算をすることはあるでしょう。
また、大手でも、1月〜2月は今年度決済の時期になります。予算に達していない教室の運営責任者は何とかして生徒を獲得しに行くでしょう。その際に、入会試験の合格基準に達していないけれど、入塾を認めたり、多少無理な約束をして入会に漕ぎつける、といったことは多々起こります。そして、教室に周りよりも学力が劣っている生徒が入会してくることになり、それを指導する講師に「お客さんを迎えた」と思われてしまうのです。実は、それで教室長と講師が揉めている場面をこれまで何度も見かけたことがあります。
しかし、我々はプロ講師。ここは、一歩運営に歩み寄りたいところです。学生講師やアルバイト感覚の先生とのは違うのです。
私は、社会人としてこのような会社の事情も理解しながら、うまく対応するためにはどうしたらよいのかを考えるようにしています。自分の都合ばかりではなく、運営の考え方や相手の事情を理解しながら対応することで、信頼をつかむことができ、今の自分の立場があると思っています。仮に運営が「お客さん」として入会させてきた生徒であっても、自分を頼って来てくれた生徒なのです。
このように、基本的に「お客さん」という感覚は講師側にはほとんどありません。運営側としては、その層までを抱えないといけないという事情がありますが、それでも、成績を伸ばし、目標を達成できるようにしてあげたいという気持ちは、運営側も講師となんら変わるものではないはずです。
実際、私も運営側にいたときは、中3の一番下のクラスを毎年自ら担当していました。うまく調和を取りながら、プロ講師としての立ち居振る舞いをしたいところですね。
なんで勉強ができるって特技は認めてもらえないんだろうね?(第2巻12話)
桜花ゼミナールを退塾し、フェニックスへの転塾していった生徒である恋花を、もう一度桜花ゼミナールへ引き戻す際に黒木先生が恋花に語りかけた一言です。
成績優秀であった恋花は、さらなる高みを目指してフェニックスへ移るのですが、恋花の退塾は桜花ゼミナールにとっては痛手なはず。しかし、黒木先生は留めることをしなかったのですね。そして、フェニックスの授業を受けた後に、このセリフで桜花ゼミナールへ再入塾させています。
黒木先生は、恋花がフェニックスには向いていないことを見抜いていたんですね。桜花ゼミナールでは優秀な部類の恋花も、フェニックスではギリギリついていけるかどうかといった位置。黒木先生は、恋花は自分が上位で自信を持って前向きに勉強できる環境が向いているとわかっていたので、このような対応をしたんですね。
これぞ「プロだ」と、私は感じました。成績の把握、生徒の性格、志望校、家庭環境……黒木先生は全部把握して、総合的な判断をしていたのです。
考察:我々が扱っているもの
「ゲーム」や「遊び」、「旅行」が『楽しいもの』だとすれば、我々が扱っている「勉強」や「受験」とは、子供たちにとってどんなものなのでしょう。大部分の答えは『いやなもの』『できればしたくないもの』となると想像することは難しくありません。ある程度年齢が上がり、高校や大学受験になれば、その答えも多少は変わってくるのかも知れませんが、それでも、根底にはそういった考えが付きまとうのだと思います。
そんな、子供たちにとって『最も取っつきにくいもの』を扱っているのが我々の業界なのです。
それはそれは一本縄ではいきません。そんな『いやなもの』を『必要なもの』『大切なもの』、また欲を言えば『楽しいもの』に昇華させていくのが、我々講師の役割だと私は信じています。(実際私自身、勉強は『楽しいもの』だと心の底から思っています(大変だけどね…))
最後に
以上、『二月の勝者』から私が感じたことを書いてみました。
塾や予備校に限らず、学校でもそうですが、先生というのは、一旦教室に入ると、その空間におけるすべての支配者になります。それゆえ、独りよがりになってしまう先生を私は何百人と見てきました。
先生であっても、社会の一員、そして、組織の中で仕事をする以上、その組織の一員としての役割を果たす必要があります。特に我々はプロ講師ですから、常にその意識を持ちながら、時には外から自分の立ち居振る舞いや行動を反省する機会を設けることも大切だと感じています。
この『二月の勝者』、ご覧になった方いらっしゃれば、コメントなどでご意見いただければと思います。
寒さ厳しい折、風邪などひかぬよう、ご自愛のうえお過ごしください。また、次の記事でお会いしましょう。
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