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最終提言!塾講師はインボイスにどう立ち向かうか【キャリアコラム#106】

こんにちは。プロ講師の黒磯直行です。

夏休みが終了し、2学期がスタートしています。特に受験生は、9月10月には模擬試験が控えており、それぞれが夏の成果を持ってくる時期でもあります。

塾講師や運営としては、この成果はいつも以上に注視していく必要があります。この成績をもって、夏の成果であると保護者は判断することが多いからです。ここから退塾や進路変更などを考え出すことになります。

保護者としては、いつも以上にお金も時間もかけた夏期講習に一定の期待をするものです。通常、塾に一旦成績表が届いて、塾から返却する場合が多いので、必ず先に成績を確認し、特に期待した成果が出なかった場合には、返却前に保護者に連絡をしておくと効果的です。場合によっては面談などを設定して、今後に期待いただけるよう手を打つことを忘れずに実践してください。退塾防止ばかりか、逆によい評判を生む場合も多々あります。

塾生の全員の成績がそろって向上することは基本的にはありえません。しっかり注視して、先回りした声掛けや対処をぜひ心がけたいところです。

目次
いろいろ変更のあったインボイス制度
前回の記事からの訂正
結局、インボイス制度は登録した方がいいのか
まとめ

 

いろいろ変更のあったインボイス制度

インボイス制度の概要について詳しくはこちらの記事(前篇後編)をご覧いただければと思います。

いよいよこの10月からインボイス制度がスタートします(してしまいます)。

前回の記事を掲載したのが年明け前だったのですが、そこから約9カ月、いろいろな制度上の改変やわかってきたこと、有利不利な点が徐々に浮き彫りになってきました。

前回の記事では「塾講師・予備校講師としては登録した方がよい可能性が高い」と結論付けたものを掲載いたしました。

しかしながら大変申し訳ない。様々な情報(しかも後だしのように五月雨式に出てきました)を吟味した結果として、私は今の時点でインボイス事業者の登録はしていません。企業側との交渉の結果によっては、少なくとも2026年9月までは登録は見送ろうと思っています。その理由と今後の対策や動向などを、自分の経験や考えに基づいてまとめていこうと思います。

 

前回の記事からの訂正

「益税」は存在しない

まず、前回の記事の訂正をさせてください。

前回の記事では、『免税事業者は、消費者(お客さん)から徴収した消費税は「益税」として売上に計上できる』という記載をしました。しかしながら、消費税法によると消費税の納税義務者は消費者ではなく事業者である、と記載があります(消費税法第5条)。したがって、消費税とは売上の中の10%ないしは8%を「事業者」が支払う直接税ということになります

ちょっと難しいですね。要は、事業者は消費税のほかにも法人税や固定資産税などを納めているのですが、こういった税金も売上(つまり消費者が支払ったもの)の中から捻出されています。消費税も同じようにこの範疇ということです。事業者としては、消費税を納めなくてはならないのでその分を上乗せして値段を付けているというだけです。しかし、レシートには消費税を記載しなくてはならないという法律(消費税法第63条)によって、私たちの受け取るレシートにはいくら消費税を支払ったかが明確になっています。ここから、消費税は消費者が負担している、という勘違いが起こっているのです。

免税事業者は、消費者から受け取った消費税を売上に計上しているのではありません。消費税を納める義務がないというだけです。

したがって、消費税は預かり金ではなく「益税」は存在しない、ということになります。2023年2月10日に金子財務大臣政務官の答弁で政府見解として出されたものです。改めて訂正いたします。

 

結局、インボイス制度は登録した方がいいのか

★この記事に何度か登場する用語「免税事業者」とはインボイスの登録をしていない個人事業主のことです。インボイスを登録して消費税を納めるようになると「課税事業者」となります。

まず、前回の記事で、登録をした方がいい業種とする必要がない業種、また、確定申告やPL(貸借対照表)を見比べて、登録の有利不利について触れています。

今回は、その中でも私と同じ立場であり、読者の皆様に一番多いであろう「塾・予備校(企業)と講師契約を結んで業務を委託されている講師」に絞ってお話をしていきます

 

登録はまだ先でいい(登録の可否を決めるのはまだ先でいい)

結論から申し上げると、「現段階では登録は必要ない」と私は思っています

公正取引委員会が出してきた提言や法律上の解釈を考えると、契約更新の時期(私は3月更改です)にもよりますが、少なくとも現在の契約の満了までは登録は見送った方がよさそうです。その後に、登録をするかどうかは相手企業との交渉の結果によって考える必要があると判断しています。その理由は以下の通りです。

※なお、申請用紙をすでに出してしまっていて既にインボイス番号を取得している場合でも、取り下げができます。10月から効力のある取り下げ期限は2023年9月29日(金曜日)必着です。必着ですのでご注意ください。

<重要!>10月からの契約改定には応じる必要はありません!

10月以降も今の契約が残っている場合は、民法の規定により、満了するまでこれまでの契約を維持できる可能性が高いです。

基本的に契約期間中に契約書の内容を一方的に変更することは相当の事由がない限り認められません。随時契約であれば話は別なのですが、講師業で随時契約(つまり、授業1回ごとに契約を交わしている)という事例は稀です。私は2月満了なのですが、多くの方が年度末かそれに近い時期が満了時期となっているはずです。

もちろん、企業側が何も言ってこなければこちらから動く必要はありませんが、もし、報酬値下げの申し出を受けたとしても、契約書の満了時期を縦にして満了期日までは現行のままでお願いする交渉をしてみてください

また、双方が納得して契約を更新する場合はこの限りではありません。その場合には、その後混乱をきたさぬよう、契約を途中で打ち切る合意書と新たな契約書をしっかり作成して受け取るようにしてください。

<超重要!>次の契約更新時に気を付けること

次年度に向けた契約更新の際に、免税事業者(つまりインボイスを登録していない場合)は、報酬額のうち消費税相当分(10%)を差し引いた金額を提示される場合があるかもしれません。しかし、これは受け入れる必要がありません(というより絶対受け入れるべきではありません)。

公正取引委員会の提言(5月)

これについては、公正取引員会がお墨付きを出しています。詳しくはこちら(公正取引委員会HP)をご覧いただきたいのですが、実は、このインボイス制度導入に際して、企業側にも軽減措置が施されています

企業の軽減措置

各企業が免税事業者と取引した場合、本来はその消費税は控除できずに、丸々企業側の負担となります。しかし、インボイス制度の開始に当たって、この免税事業者と取引をした場合でも、2026年9月末までは消費税のうち80%の控除を認めるという軽減措置が取られています。(それ以降、50%、20%と段階的に縮小させるということになっていますが、現状ではどうなるか注視が必要です。)

例えば、塾講師に当てはめると、1授業を2200円で契約した場合、200円が消費税相当分です。免税事業者である塾講師にこれを支払った場合、企業側はこの200円は消費税控除することができずにさらに200円を国に納めることになります。(※これがあるので、消費税分を除いた2000円で契約を更新しようとしてくる企業が出てくるのです。)

しかし、これに軽減措置を適応することで「2026年10月まで、企業が免税事業者と取引した場合には、この200円のうち80%は控除しますよ。納めるのは20%の40円でいいですよ」となっています。企業の新たな負担は指しあたっては40円ということになります。

この制度を利用するにも関わらず、講師の報酬を10%丸々カットした契約を提示する企業がこの業界に限らず多々出てきています。そうなると逆に企業はこれまでよりも8%増収ということになりますからね。

そこにメスを入れたのが今回の公正取引員会の提言です。

先程の塾講師の例だと、「ホントは40円の納税でいいのに、インボイスを登録していないから企業の負担が増えるって言って講師報酬を200円も下げたらだめだよ!その40円の範囲内で交渉すべきだよね。そうじゃないと独禁法や下請法違反で処罰だよ!」とお墨付きをくれたのですね。これは大きな交渉の後ろ盾となります。

私が「免税事業者のままの方がよい」と判断した理由

前回の記事でちらっと触れたとおり、インボイスを登録した課税事業者にも経過措置があり、同じく80%の控除が認められます。ただ、注意したいのは、「売上の2%を納める」という点です。これだと、免税事業者のまま、2%の報酬減額を受け入れた方が私の場合は得です。同業の皆さんも同じような状況だと思います。

【例】
★現状
1授業2200円 月40コマ 交通費20000円
・2200×40+20000=108000円

①免税事業者で2%の報酬減を受け入れた場合
1授業2160円 月40コマ 交通費20000円
・2160×40+20000=106400円(▲1600円)

②課税事業者になって売上から2%の納税をする場合
1授業2200円 月40コマ 交通費20000円
・2200×40+20000=108000
108000-108000×0.02=105840円(▲2160円)

以上のように、この例だと①の免税事業者のままが現状から一番マイナス幅が少ないことが分かります

実は、交通費など、給与所得者であれば非課税部分も事業者としては売上なのです。また、消費税分で受け取った200円にも課税されます。交通費に関してはその後確定申告で経費として計上できますし、消費税として納税した分に関しては租税公課でこれも経費に計上できるので実質は大きく変わるものではないのですが、瞬間的に手にする現金が多い点や経理上の煩雑さがなくなる点で①の方が利点が大きいと思っています。

また、もし②を選択すると消費税納税用に別途蓄えもしておかなくてはなりません。しかもいざ納税の際に自らの足で納めに出向かなくてはならないということです。この鬱陶しさはばかにはできません。

授業分だけでなく、事務作業費や採点業務の報酬も確認

授業報酬だけに目が行きがちですが、それ以外の業務の報酬(私の場合には採点業務や面談などを行った際に受けることができる報酬)もしっかりと消費税分が支払われる契約になっているかを確認してください。意外と盲点で、実は私もしばらく消費税が支払われていないことが最近判明しました。これまでは消費税を納める必要がない免税事業者でしたので変わりありませんでしたが、これから消費税の納税をしなくてはならなくなると、この中から消費税を捻出しなくてはなりません。むしろマイナスを被ることになります。契約更改の際には、ぜひ抜かりなくチェックをしてみてください。

まとめ

インボイスについては、企業側との交渉結果に基づいて登録の可否を決定する。
⇒差しあたって次の契約更改までは登録は見送る方が有利になることが多い。
⇒できればインボイスに登録せずに企業側に納税をしてもらった方が煩雑さは軽減される

極端な減額交渉には慎重に対応する。現状の2%減までの範囲での交渉に留める。
⇒企業側も免税事業者との取引の場合には2%の納税でよいという経過措置がある。
⇒それが叶わないようであれば、インボイスに登録してこれまで通りの報酬を得て、2%の納税をした方がダメージは少ない可能性が高い

授業報酬以外の項目も注意して契約書を作成する

 

この制度については、直前になって様々な問題点も浮き彫りになってきています。さまざま意見がありますし、私も内に秘めた思いはありますが、決められた制度の中でどのようにすれば負担なく有利に日々生活が送れるのかを模索することも大切です。それにはやはり知ることが大切です。私たちが教えている勉強と同じですね。

 また、続報などがあれば記事にしたいと思います。最後までご覧いただきありがとうございました。

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黒磯 直行

記事執筆者:黒磯 直行

新卒で早稲田アカデミーに入社。営業部門長などを歴任し、その後スクールIEにて個別指導塾の運営マネージャー。退任後は、Z会進学教室およびZ会東大進学教室にて講師として小中高に渡り幅広く指導を続ける傍ら、私立学校教員としても活躍。講師としてのキャリアは当然のことながら、運営サイドでの実務経験も豊富。20年以上塾業界に身を置いている超ベテラン講師。「社会人としての講師育成が業界には必要だ」との思いのもと、後進育成にも積極的な姿勢で取り組んでいる。

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