公民は、現代日本で、「生きるのに必要な」知識を得る科目です。
高校公民で身に着ける知識は、社会の仕組みや代表的な思想など、高校生が、これからの人生で、ニュースや政治に接する際に必ず必要となるものです。個人的に勉強しようと考えない限り、公民という科目以外で、ニュースの見方、選挙や税の仕組みなどを学ぶ機会はどこにもありません。
そのため、公民の科目の指導をする際には、生徒に「この勉強が日常生活でどのように役立つのか」を、具体的に知らせていくことが必要です。例えば、「ニュースで今、騒がれている○○議員は、どんな行動を取ったことが問題になっているのか」など時事ニュースに絡めたり、「選挙の投票の際、世の中の大人は何を見てそれぞれの立候補者の違いを判断しているのか」などです。
逆を言えば、公民ほど日常生活に直結して役立つ科目はありません。常に、日常生活との関連を意識させることで、「センター科目」として軽視されがちな公民は、実は将来自分の教養を周囲に判断される際の大きなポイントになると理解してもらえるでしょう。
ここでは、公民の中でも特にセンター受験者数の少ないマイナー科目である倫理の指導方法についてまとめました。哲学や宗教など、高校生には、見ただけで拒否反応が出てしまうような難解な用語が頻出するのが、高校倫理の特徴です。そんな生徒の拒否反応を、いかにして払拭するかについても、私の経験から来る指導法を紹介しました。
倫理の指導は、定期試験対策か、センター対策かで、まったく違う。
学校の定期試験対策の場合
学校の定期試験対策の場合、倫理は、キーワード理解だけではなく、自分の言葉で思想の内容を説明する能力を求められる場合が多いです。当然、それぞれの思想家について、深い考察が必要です。
定期試験の場合、学校ノートやプリントなど事前に授業で使った資料がある場合がほとんどなので、それを使いながら、本人に自分の言葉で説明させるトレーニングを行います。ただ、基本的な知識が揃って初めて、思想内容が理解できます。
まずは、山川出版社の「一問一答倫理・用語問題集」を使用して、重要なキーワードを暗記していきます。その際、塾講師の立場では、学校の資料を見ながら「一問一答倫理・用語問題集」の中で、今は暗記する必要がない難解な単語を、ピックアップして消してあげることが重要です。
「一問一答倫理・用語問題集」は、かなり深いところまで網羅した用語問題集なので、全てを覚えようとすると、かなり苦労します。一部の優等生を除いて、ほとんどの生徒は、少しでも暗記の量を減らしたいと考えています。「覚えなくてもいい」ものを教えてあげることで、生徒のモチベーションアップにも繋がります。
一通り用語を覚えたら、上記の「自分の言葉で思想の内容を説明する」トレーニングに入ります。何せ大人でも苦戦する難解な哲学思想なので、口頭で「どんな言い方でもいいから自分の言葉で説明して」と言って、こちらが補足を加えながら発言を促すのが一番良いです。それができるようになったら、ほとんど仕上がっています。覚えたことを忘れないように、今度は文章でそれぞれの思想家の違いを説明できるようにしてくる、という宿題が効果的です。
センター倫理対策の場合
センター倫理受験という選択。
センター試験での倫理対策は、とにかく短期間で仕上げる必要があります。国公立理系受験生など、学校で一度も倫理の授業を受けた経験がない生徒が、夏休み明けからの数ヶ月の短期間で、一から取り組む場合も多いようです。
一般に、公民科目の中で、資料問題の多い現代社会は、七割の得点を取るのは案外楽にできる(中学公民の知識がきちんと頭に入っていて、普段から新聞やニュースに気を配っている生徒なら、勉強なしでも半分位取れる、という話も聞きます)。その反面、七割以上を確実に取らなくてはいけない場合、得点が読みにくい、と言われます。
一方で、キーワードや穴埋め問題がメインとなる倫理は、知識がほとんどなので勉強をしないとほぼ0点。その代わり、きちんと対策をすれば、コンスタントに100点近くを狙うことができる科目です。まずは、生徒の志望校で必要とされるセンター試験の得点率を判断しましょう。センター重視で、ほとんどの科目で失敗が許されない地方国立大学の受験生や、難関私大のセンター試験利用入試を使う受験生には、試験ごとの点数にブレの少ない倫理は適した科目です。
短期間でのセンター倫理対策は、何はなくともキーワード!
センター試験で倫理を受験すると決めたら、まずは、前述、山川出版社の「一問一答倫理・用語問題集」で、一通りのキーワード暗記を行います。細かいところは確実でなくていいので、「ルソー→エミール」「フロイト→精神分析」など、連想ゲームのように関連する単語が浮かぶ程度には、暗記を仕上げることが必要です。
この時点では、それぞれの思想家の思想について、自分で人に説明ができるレベルの深い部分まで理解している必要はありません。「一問一答倫理・用語問題集」の暗記の際は、暗記を行いながら並行して、それぞれの単元に対応した問題を実際に解いてみることが必要です。
オススメは同じく山川出版社の「大学入試センター試験完全対策 倫理問題集」です。これは、実際のセンター試験に近い、的中問題を狙った良問が出題されているというよりは、「一問一答倫理・用語問題集」に即しているので、生徒自身が勉強の効果を実感しやすい問題集です。同じ範囲を「一問一答倫理・用語問題集」で暗記した直後に、「大学入試センター試験完全対策 倫理問題集」を解くと、かなり正答率が高くなる場合が多いです。
それによって、特に倫理の勉強を始めてすぐの、生徒のモチベーションを高めることができます。センター倫理においては、このキーワード理解までで、だいたい七割くらい完成したと言えるでしょう。ここまでが、11月末までに仕上がっていれば、残りの一ヶ月でじっくり理解を深めることができます。
センターまでの最後の一ヶ月は、ひたすら手を動かす!
いよいよセンター試験が近づいた最後の一ヶ月間は、実際の試験の最中にいかにして早く問題文を把握するかを問われる英語や国語、限られた時間の中でミスのない計算力の求められる数学など、試験の勘を保たなくてはいけない科目がたくさんあります。
直前期のセンター試験対策は、他の科目と同様、過去問対策に取り掛かります。その際、12月前半などまだ時間に余裕があるときは、大手予備校が制作したセンター模試を集めた問題集で手馴しをすることをお勧めします。予備校制作のセンター模試は、若干実際のセンター試験の出題傾向からズレることもありますが、様々な角度から的中問題を狙っている場合があるので、実力錬成には最適です。
本番で実際に使用された過去問は、年明け、本当の直前期に一気に取り組んで、センター試験独特の出題パターンを掴みましょう。たくさんの過去問に取り組んでいるうちに、次第に、生徒の苦手な分野が見えてくるはずです。そうなったら、山川出版社「倫理ノート」を使って、苦手分野だけを徹底的におさらいします。
この問題集は、とにかく自分で手を動かして書く事が多いので、用語の意味を一つ一つじっくり理解できる反面、全部に真面目に取り組んでいるとかなり時間がかかってしまいます。ので、あくまでも過去問対策の中で見えてきた苦手分野の克服に、利用すると良いと思います。
また、各思想家の思想を、記述形式でノートにまとめるページが多いため、生徒にいきなりテスト形式で解かせようとしても、まず間違いなく白紙ばかりになってしまいます。
私が実際に指導していた際には、「最初から答えを見て、その時は赤(オレンジ)ペンで解答を書き込む。→その後に、チェックシートを使って、内容を理解しているかを確認する。」という方法を取りました。
センター直前は、センター対策と二次試験対策の狭間で、生徒が、身体的にも精神的にも一番疲労が溜まる時期です。塾講師の立場では、参考書を駆使して、とにかくムダの少ない、効率の良い勉強方法を考えるのが、頑張っている生徒への一番の応援になると思います。