高校化学で、一番はじめに触れるのが元素の周期表。そこでは重ねて、元素の性質というものを学びます。この周期表を原点にすれば、化学のあらゆる現象が簡単に理解できるようになるのです。その中でも、生徒からわかりにくいという声がよくあがるものの中に「イオン化エネルギー」や「電子親和力」という部分があります。今回ひとつの参考として、説明の仕方を提案できればと思います。視覚的に分かり易いように周期表を載せますので、一緒に説明すると効果抜群です!
イオン化エネルギー?電子親和力?
まず二点をおさえよう
イオン化エネルギーも電子親和力も、共通して言えるのは
ひとつの原子がイオンになるときに関与するエネルギー
を指すということです。
そして、イオン化エネルギーはその際に必要なエネルギーを、電子親和力はその際に放出するエネルギーを示します。
この二点をまずおさえましょう。
そして
イオン化エネルギー:気体状態の原子から電子一個を取り去って、一価の陽イオンにするのに必要なエネルギー
電子親和力:原子が電子一個を取り入れて、一価の陰イオンになるとき放出するエネルギー
という定義が導かれるようになるのです。
上記の定義をはじめから理解し覚えようとするのではなく、
①原子がイオンになる時のエネルギーの話である
②そのエネルギーは必要か放出のどちらかである
この二点が頭の中にあれば、理解はぐんとしやすくなります。
イオンへのなりやすさ
その上で、原子がイオンになりやすいのはどういう場合か、を一歩踏み込んで考えます。
必要なエネルギーについて考えた場合、必要とするエネルギーというのは多いほうが原子からイオンになりやすいのか、それとも、少ないほうが原子からイオンになりやすいのか。どちらでしょうか?
少ないエネルギーでイオンになれる方が、効率が良く、労力もかかりませんよね。ですから必要なエネルギーは少ないほうがイオンになりやすいのです。ちょっとのエネルギーをもらうだけでイオンになれちゃった、ということです。だから
イオン化エネルギー:その値が小さいほど一価の陽イオンになりやすい
ということができるのです。周期表では右上の方がイオン化エネルギーが大きくなります。
同様に、電子親和力について考えてみましょう。
原子がイオンになる際、放出するエネルギーは大きいほうがなりやすいのか、それとも小さいほうがなりやすいのか。
必要⇔放出と対比で考えれば、一目瞭然ですね。大きいほうがイオンになりやすいのです。だから
電子親和力:その値が大きいほど一価の陰イオンになりやすい
ということができます。
陰イオン?陽イオン?
ここまでくればあと少しです。
イオンへのなりやすさについて。
イオン化エネルギーと電子親和力の、どっちが陽イオンへのなりやすさを考えたエネルギーなのか、
そしてどっちが陰イオンへのなりやすさを考えたエネルギーなのかわからなくなる、
といった質問をよくうけます。
これは、電子を出すのか、受け取るのか、をおさえていれば覚えるまでもなく、自然とわかることです。
イオン化エネルギーは、電子を出すのに必要なエネルギー、でした。
例えばナトリウム(Na)で考えてみましょう。
ナトリウム原子は陽子11個、電子11個を持ちます、これがナトリウムイオン(Na+)になるとき、ナトリウムイオンは陽子11個、電子10個、と電子を一個失う必要があります。電子を一個失うことで、陽子一個分、ナトリウム原子はプラスの電荷を帯びるために、NaではなくNa+と表現されるのです。ナトリウムイオンは陽イオンです。
具体的に考えるとわかりやすいですね。
ですから電子を出すことでイオンとなる、陽イオンへのなりやすさを、イオン化エネルギーにおいては考える必要があります。
同様に、電子親和力は、電子を受け取るのに放出するエネルギーでした。
例えば、酸素について考えてみましょう。酸素原子は陽子8個、電子8個を持ちます。これが酸化物イオン(O2-)になるには、陽子8個、電子10個をもち、電子2個分の電荷を帯びさせないといけません。つまり酸素原子は電子2個を受け取る必要があります。酸化物イオンは陰イオンです。
ですから、電子を受け取ることでイオンとなる陰イオンへのなりやすさを、電子親和力では考える必要があります。
希ガスは安定
もうひとつ、同一周期における、イオン化エネルギーと電子親和力の大小関係を考えてみましょう。
ここでのポイントはたった一点、希ガスは安定、ということだけです。
希ガスは安定しているため、イオンへはなりにくいのです。
ということは、
イオン化エネルギーにおいては、もっともエネルギーを必要とする
と考えられ、
電子親和力においては、もっともエネルギーを放出しない
と言えます。
よって、イオン化エネルギーはナトリウムがある第一族が一番小さく、周期表の右へいくほど、どんどんエネルギーを必要とするようになり、(イオン化エネルギーが大きくなっていき)、一番右端の希ガスでは、極めて大きいエネルギーを必要とする、と言えます。
電子親和力は、第二周期でいう酸素やフッ素がある周期表の右のほうが(希ガスはのぞく)大きく放出し、ナトリウムがある一族のほう、つまり周期表の左に行くほど陰イオンにはなりにくくなります。
電気陰性度
最後に、イオン化エネルギー、電子親和力とセットで考えて欲しい、電気陰性度について言及したいと思います。
電気陰性度とは、原子が結合するとき、その結合に関与する電子を惹きつける強さの尺度、と定義されます。つまり、電気陰性度が大きいということは、電子を強くひきつける、ということになります。
そしてここでも、周期表内における電気陰性度の大小は大事な問題となります。周期表内で電気陰性度の強さはどのように変化するのでしょうか。
答えは、希ガス(18族)を除いて右上の方が大きく、左下のほうが小さくなります
ここで、よく疑問をうけること。
それは、なぜ希ガスをのぞくのか?ということです。
この質問への回答は、今までの説明を読んでくださっていればすぐにピンとくることです。希ガスは安定している原子。それに対して電気陰性度は結合に関与するときに電子をひきつける強さのこと。安定しているのなら、その安定さを壊してまで結合する必要はありません。そういうわけで、希ガスにおいて電気陰性度を考えない、という風に理解するとよいでしょう。
そして右上の方が電気陰性度が大きい、ということに関しては、入試頻出!!超重大知識!である
電気陰性度の大きい元素 F O N Cl
を覚えてさえいれば、周期表の右上ほど大きいんだな、ということが容易に推測できます。この知識をまずは覚えることが先決です。
F O N Clのゴロは、「不穏くる」で覚えましょう。少しネガテイブな表現ですけどね(笑)
最後に
イオン化エネルギー、電子親和力、電気陰性度、の三点について説明してきました。何度も言いますが、この三点はセットで覚えると、関連して知識を引きずり出せるので覚えることも少なく、楽に対処できるようになります。以上の説明を参考に、生徒さんの理解をもっと促進できれば幸いです。