まず、蒸気圧降下、沸点上昇、凝固点降下の三分野は、理系の大学入試では必須の分野です。この三分野を関連させることなく、別々に覚えている生徒が指導時に結構いたのですが、それは全く要領をつかんでいない、といえます。この三分野には同じ考え方を共有しており、根幹が一緒なのです。
それは、しにくさ、というキーワードひとつです。
ひとつひとつ取り上げながら、説明していきたいと思います。是非、指導の際の参考にしてください。
純水と水溶液
まずどの分野でも、純水と水溶液における違いを考えているのだという前提を踏まえなければなりません。
純水と水溶液の違いが何か、はっきり説明できますでしょうか?
純水は、溶質を溶かしていない。水溶液は、溶質を溶媒に溶かしている
です。純水は溶質を溶かしていないただの水で、水溶液は溶媒になにか溶質をとかした溶液、なのです。
1、蒸気圧降下
では早速ひとつひとつ考えていきましょう。最初は蒸気圧降下です。
純水と水溶液を比較して、水溶液には、溶質という粒がうようよ内部に存在するとイメージしてください。
このとき、溶媒の蒸発のしにくさ、を考えます。
さて、純水と水溶液では、どちらが蒸発しにくいでしょうか?
純水に比べて、水溶液の方は、溶質がうようよしているため、溶媒はその溶質にぶつかって蒸発しにくくなります。蒸発しにくいということは、蒸発して蒸気になりにくいといえます。
だから、純粋に比べ、水溶液のほうが蒸気圧が低い、という結論が導けるのです。これが蒸気圧降下です。
濃度による?
蒸気圧降下とは、溶質が蒸発を妨げることによって起こる現象だと先に言いました。ということは、溶質が多ければ多いほど、もっと蒸発を妨げますよね。つまり、濃度が高いほど、同じ体積内の溶質が多いと言えますので、蒸発を妨げる力が強いのです。すなわち、蒸気圧降下の現象は大きくなります。
溶質という一点に注目するだけで、こんなに理解がしやすくなりますね。生徒さんが求めているのはこういうシンプルさなのです。
2、沸点上昇
次に、沸点上昇について考えてみましょう。沸点上昇についても、同様に純水と水溶液を考えます。
ここで、沸点とは沸騰するときの温度をさします。そして沸騰とは、蒸気圧が外気圧と同じ圧力になること、をいいます。
このときどういう現象が起きているのでしょうか。
外圧と内圧が釣り合うと、液体の内部から蒸発が激しく起こるようになります。
これが沸騰です。液体の内部から激しく蒸発していく。そんなイメージを持ってください。
ではまた、純水と水溶液で蒸発のしにくさを考えます。
これは、先ほど蒸気圧降下のところで説明した考え方を、そっくりそのまま適用できます。
水溶液は、純水と違って溶質が溶け込んでいて、それが溶媒の蒸発を妨げる、とのことでしたね。
蒸発を妨げる=蒸発しにくい、ですから、水溶液のほうが蒸発しにくいです。
蒸発しにくい場合、蒸発するときの温度はもっと上げないといけません。
一般的に温度を上げれば液体から気体になることが多いですよね。
それと同じような感覚で理解します。
温度をもっとあげなければ蒸発してくれない。これが沸点上昇です。
ですから、純粋に比べて、水溶液では沸点上昇という現象が起きるといえるのです。
3、凝固点降下
最後に、凝固点降下について考えてみましょう。
ここでもまた、純水と水溶液について考えます。
凝固点降下においては、凝固のしにくさ、がポイントです。
純水と水溶液では、どちらの方が凝固しにくいでしょうか。
ここまでくれば、もう同じことの繰り返しだとピンとくるでしょう。
水溶液のほうが、溶媒が凍るのを溶質が邪魔をします。その分凝固点、すなわち凝固するときの温度が低くなるのです。
この現象が凝固点降下です。
以上三分野を説明しました。
全ては、反応のしにくさ、の現象
だということができます。
そう考えることで、覚えることが減り、簡単になります。
では、溶質つながりで、もう二分野制覇してしまいましょう!それは、浸透圧とコロイド溶液、です。
4、浸透圧
浸透圧は、その名のとおり、圧力のことです。浸透する圧力、とよめますね。
ではどんな圧力なのか、詳しく見ていこうと思います。
純水とショ糖溶液(つまり水溶液にあたりますね)をセロファン(半透膜)で仕切るとします。
ここで、半透膜と全透膜の違いを一応確認しておきます。
全透膜:水も溶質も通す膜
半透膜:水は通すが溶質は通さない膜
です。
今回セロファンは半透膜なので、純水とショ糖溶液の間に、水だけの移動があると考えます。
さて、仕切るとどのような現象が起こるでしょうか?
水の移動は、どのように起こるでしょうか?
濃度が高い方へ水は移動していくので、ショ糖溶液の方へ水が移動していきます。
このときの水の移動を、浸透といい、水が入り込んでくる圧力のことを、浸透圧といいます。
この水が入り込んでくる圧力、というのがピンと来ないかもしれません。
その場合は、水が入り込んでくるのをおさえる力、と解釈を変えてみてください。
水が入り込んでくる力を同じ力で逆におさえてやる力です。その二つは釣り合うべき力のはずですよね。だから同じ強さの力だと言えるのです。
さて、浸透圧がどんな力かわかったところで、溶質との関連を考えていきましょう。
浸透圧も、浸透する溶液が濃ければ濃いほどたくさん浸透していきます。
すなわち浸透圧はおおきくなります。
浸透圧においても、溶質の多さ、つまり濃度が高いほど、浸透という現象も大きく見られるのです。
5、コロイド溶液
最後に、コロイド溶液について考えていきます。
コロイド溶液は、コロイドが溶けている水溶液です。
そして今回特別に注意しなければならないのは、コロイドは普通の溶質粒子に比べて大きさが大きく、直径10^-7~10^-5cmほどだということです。
そのために、コロイド溶液は普通の一般的な水溶液と比べて、変わった性質を示します。
その性質に、いくつか重要なものがありますので、見ていきましょう。
塩析・凝析
塩析とは、以下のように定義されます。
親水コロイドに多量の電解質を加えると、粒子の周りの水分子を電解質のイオンが奪い取り、コロイドが沈殿します。このときの現象を塩析といいます。
ここで、親水コロイドをおさえておきましょう。
親水コロイドとは、字のとおり、水と親和性の高いコロイドのことをいいます。
水と親和性が高いために、多量の電解質を加えなければ、水と親水コロイドとの親和性を崩せません。
だから、塩析では、多量に電解質を加えて沈殿を作ります。
同様に、セットで覚えておきたい!!!!凝析について考えます。
凝析とは以下のように定義されます。
疎水コロイドに少量の電解質を加えると、コロイド粒子の電荷と反対符号のイオンが吸着し、電気的に中性となり、沈殿します。このときの現象を凝析といいます。
ここでも、疎水コロイドをおさえておきましょう。
疎水コロイドは水と親和性が低いコロイドのことをいいます。
水と親和性が低いために、ちょっとの電解質を加えてるだけで、水と離れて沈殿します。
だから凝析では、少量の電解質を加えてやるだけでいいのです。
まとめ
以上、蒸気圧降下、沸点上昇、凝固点降下、浸透圧、コロイド溶液について説明してきました。
いずれについても共通して言えることは、溶質に注目するということです。
溶質に注目する分野!!!
そう覚えておくだけで、一気に解きやすくなるはずです。指導の際の参考にしてみてください。