初めに
10月半ばを過ぎた頃から11月に入ったあたりで、受験生たちは「入試」を本格的に意識するようになるのではないでしょうか。もちろん、まだまだ出題範囲の学習が終わっていない生徒も多いでしょうが、夏休みが明けて落ち着き始めた頃合ですので、受験そのものが現実味を帯びてくることでしょう。特に日本史に関して言えば、出題範囲は広いため、これから受験に向かって何を勉強していくべきなのかという、漠然とした不安を抱えていてもおかしくはありません。そこで今回は、大学入試において、近年多くで扱われる出題傾向を解説していこうと思います。出題傾向のトレンドを掴むことによって、生徒に指導する際の学習方針などの参考になるでしょう。過去問や模擬試験などでよく見かける出題パターンを、問題形式としてしっかり把握することで、対策を行うことができ、入試本番でも冷静に対処できるのではと考えています。
※あくまでも「トレンド」であるため、すべての入試試験に当てはまるものではありません。またこの記事は、大学ごとの出題傾向を示した記事でもありません。記事内で挙げられている書籍などは、もちろん参考例です。必ずそれでなくてはならないわけではありません。閲覧される前に合わせてご了承ください。
指導手順①: 「テーマ史」
「テーマ史」とは、ただ時間の流れをたどるのではなく、「ひとつのテーマに着目し、それに関系する歴史をたどっていく」ものをさします。「テーマ史」のメリットは、ひとつのテーマに沿って歴史を見ていくことで、広く様々な時代を問うことができます。暗記系の科目において、「どれほど広い範囲の見識を持っているか」「総合的な問題に対応できるか」は、「いかに真剣に勉強してきたか」の判断基準の一つとなるので、試験という手段で篩にかける学側には使い勝手がいいのです。例えば、普通に歴史を追うだけでは、せいぜい1~2つの時代を扱う事しかできません。しかしここで「外交史」を問題として扱うとします。すると、古代の渡来人や飛鳥時代の遣隋使に始まり、中世の貿易、江戸時代の鎖国・開国、近現代の他国との関係など、その他にも様々な時代・内容に触れることができ、全体的な知識を問うことができるのです。試しに「外交」と関わりのあるものを思い浮かべてみると、その範囲の広さに改めて気づくことになると思います。また(大学受験においては、極少数ではあると思いますが)いわゆるヤマを張ってくる受験生に対応できたりもします。
それでは、「テーマ史」に関して、生徒にどう勉強するように指導するべきか、具体的に考えてみましょう。「テーマ史」の攻略には、やはり徹底的な「問題演習」が重要だと思います。問題集などで多く取り上げられているものは、いわゆる頻出テーマです。いろいろな問題を解くことで、それぞれのテーマについて「多角的に考えること」「縦・横のつながりを覚えること」ができるようになる必要があります。問題量をこなすことで、解いたことのないテーマも減らしておきたいものです。またテーマ史に関する、予備校のプリント・テキストや市販の参考書などもあると便利です。しかし、一通り日本史の勉強をすることになるはずなので、問題を解くたびに出てくる知らない用語やあやふやな知識をその都度自分で書き出し、調べて確認するなどでも対策できると思います。用語を調べる際には、「山川出版 日本史B用語集」がおすすめです(それぞれの用語が辞典の要領でまとめられています。もちろん市販のテキスト・参考書で調べても構いません)。また、問題集に関しては生徒個々人に合わせて選ぶと良いと思います。特に解説の有無や難易度・目標校などで、一概には決められません。問題集の例としては、「Z会 はじめる日本史50テーマ」、「駿台文庫 日本史よくでるテーマ別問題集」、「清水書院 菅野の日本史B問題集[4]テーマ史」などがあります。より多くの問題に触れるために、「東進スクール 大学入試問題過去問データベース」を活用するのも有効だと思います(テーマ史以外の問題にも多く触れることができます。無料で利用できますが、解答のみで解説はなく、また会員登録を行う必要があります)。
一度学んだ内容を抜き出し、知識を補足していくという点では、「テーマ史」は「日本史の学習の補強」と考えるといいと思います。ただ出題範囲を暗記するのではなく、その要素が、「ほかの要素とどう関わって(継って)いるのか」「どのような変遷をするのか」を通して、一層理解を深めることが合格への近道になるのではないでしょうか。
指導手順②: 「史料問題」
現代の人々が歴史を知る上で、重要な意味を帯びているものがあります。それが「史料」です。当時の政治的・社会的情勢を読み取ることができます。例えば、近年の教科書には「外国船打払令」ではなく、「異国船打払令(無二念打払令)」とされることが多いです。これは実際の史料上には、「外国船打払」という言葉が使われていないことが理由とされています。また、新たに判明した事実や学説などにより、教科書の内容が変わることはしばしばあります。それほど史料は重視されており、入試においてもまた同様です。
実際の問題ではどのように扱われるのか、例を挙げてみようと思います。
問 次の史料を読んで、以下の問いに答えなさい。
日本准三后某書を大明皇帝陛下に上る。日本開闢以来、聘問を上邦に通ぜざるなし。某、幸いに国鈞を乗り海内に虞なし。特に往古の規法に遵ひ、( 1 )を( 2 )に相副へ好を通じ方物を献ぜしむ。 応永八年五月十三日
(1)この史料の名称を答えよ。 A. 善隣国宝記
(2)この史料の作者を答えよ。 A. 瑞渓周鳳
(3)「日本准三后某」とは、いったい誰のことか。その名を答えよ。 A. 足利義満
(4)( 1 )・( 2 )にはそれぞれ人名が入る。その名を答えよ。なお、( 1 )には商人、( 2 )には僧侶の名が入る。 A. ( 1 ):肥富 ( 2 ):祖阿
(5)「応永八年」を西暦で示せ。 A. 1401年
※この問題は、出題の参考例であり、あくまでもオリジナルの問題です。実際に入試において出題された問題というわけではありませので、予めご了承ください。ですが筆者の経験から、出題が予想されるものを設問にして載せてあります。
上記の史料は、「善隣国宝記」という「瑞渓周鳳」によって書かれた外交史料の一節です。ここでは、「日本から明に宛てた国書」が話題となっています(この史料では、「明から日本に宛てた国書」も載っています)。名前を聞けば、作者や「日明貿易」に関する外交史料であるなどと答えられる受験生は多いでしょう。ですが、作者名・出典名は挙げられず、問題となることもあります。もちろん史料になっている話題だけでなく、単語の意味(上では「日本准三后某」や「応永八年」)なども問われることも考えられます。つまり、史料文以外ノーヒントの可能性もあるのです。こうなってしまうと、他の受験生と差をつけられるかは、「その史料内容(本文)を知っているか」にかかってくるでしょう。史料内容(本文)を知らなければ、他の用語や作者などの知識があっても答えることができません。本番で他の設問や問題分からヒントを得て推測することもできますが、大幅なタイムロスをする可能性も考えられます。故に、最初から「史料名」と「史料内容(本文)」を知っていれば、それがそのままアドバンテージとなるのです。
それでは、「史料問題」に関して、生徒にどう勉強するように指導するべきか、具体的に考えてみましょう。史料問題への対策は、やはり日頃から史料に目を通していることでしょう。普段の日本史学習の際に、合わせて史料を参照して身につけていこことが、最善の手段であると思います。最も、すべての史料とその全文を覚える必要はもちろんありません。一部の大学(難関大学など)を除いて、設問になる史料はある程度決まっていますし(それでも膨大な量になりますが)、その史料も全文はなんとなく雰囲気が頭に入っていれば、それでいいのです。もちろん、あまり有名ではない史料が問題となる場合ありますが、それはヒントから答えを導けるようになっていますし、他の受験生もおそらく初めて見るし史料なので、気にする必用はありません。重要なのは、その史料の「作者」「文章の意味」「話題」「重要な単語とその意味」です。特に「重要な単語とその意味」は、受験生は見落としがちです。しかし、その単語は何を指すかを答えさせる問題や、その部分の穴埋め問題などで実はよく問われています。覚えるべき部分は覚え、そのほかの文章はなんとなく雰囲気を覚える。こうして暗記量を減らしていくことがコツです。史料集に関しては、「浜島書店 新詳日本史―地図史料年表」をおすすめしますが、他の物でも構いません。しかし、「生徒自身にとって見やすいか」、「重要単語がどれかわかりやすく、注釈や意味が記されているか」は最低限選ぶ際に確かめるべきでしょう。
まとめ
「テーマ史」「史料問題」は、近年多くで扱われる出題傾向です。そのため、できる限りの対策はしておくべきでしょう。もちろん他の教科も準備しなくてはなりませんが、やる内容をある程度絞っておければ、それだけでもモチベーションは違ってくると思います。生徒たちに正しく指導するためには、指導をする講師がまず正確に、出題傾向と対策を理解していなくてはなりません。合格を目指し、残りの数ヶ月を有意義なものとするために、これからの勉強内容を間違えないことが大切です。