センター数学ⅠA 命題問題の解法①
はじめに
講師のみなさん、こんにちは!
毎年センター試験が近づくと、受験生を生徒にもっている講師のみなさんも緊張するのではないでしょうか。センター試験は多くの高校生が受験するので、センター試験対策の指導方法をあれこれ考えたり、いろいろ悩んだりしている方も多いと思います。今回はそんなセンター試験から数学ⅠAの指導方法や指導のコツをご紹介したいと思います。取り上げる分野は、第一問の命題分野です。
センター試験数学ⅠAの問題の第一問には必ず命題に関する問題が出題されています。しかし、「命題が苦手で、、、」という受験生も多いと思います。かくいう僕が去年指導していた高校三年生の生徒も、命題の問題ではなかなか安定した点数が取れず悩んでいました。しかし、これから説明する考え方や解き方がとてもわかりやすいと好評だったのでご紹介したいと思います。受験生や高校生に数学を教えている、教え子が命題の分野が苦手で困っているという講師のみなさんは是非読んでみてください。
センター試験の命題問題の解法ですが、大きく二つのパターンに問題を分類してそれぞれのパターンについて解法をご紹介していきます。すなわち、①不等式パターンと②整数パターンの二種類についてです。今回は①不等式パターンについて説明し、②整数問題パターンについては次回の記事で説明したいと思います。
基本用語とその覚え方
これから解法を紹介するわけですが、その前に十分条件および必要条件、必要十分条件という三つの用語についてまずは確認しておきたいと思います。
どれも命題問題においては基本的な用語であり、この意味がわかっていないとそもそも命題問題を解くことができませんが、用語の意味を曖昧にしていたり、十分条件と必要条件がときどきどっちがどっちだったかど忘れしてしまったりする受験生も多くいると思うので、まずはそこを考え方から確認したいと思います。
十分条件と必要条件がごっちゃにならないための簡単な覚え方も紹介したいと思うので、基本は完璧という人も目を通してみてください。
十分条件と必要条件の定義
高校数学における十分条件と必要条件の定義を見てみるとだいたい以下のようになっています。
十分条件・・・命題「AならばB」が真であるとき、そのBに対するAのこと。
必要条件・・・命題「AならばB」が真であるとき、そのAに対するBのこと。
必要十分条件・・・命題「AならばB」が真、かつ命題「BならばA」が真であるとき、そのAに対するBのこと、およびそのBに対するAのこと。
以上が簡単な定義ですが、「ならば」という言葉を使って十分条件か必要条件かを考えられると混同しやすいです。そのため、十分条件か必要条件かを判断するときには、“矢印”を使って考えるようにしましょう。つまり、「AならばB」という命題は矢印を使って「A→B」と表現でき、この命題が成立するとき、
AがBにとっての十分条件で、BがAにとっての必要条件
だということが言えます(必要十分条件となるのは、この矢印が両方向となったときです)。
すなわち、→のスタート地点の事象が十分条件になって、→のゴール地点が必要条件になるということを覚えておき、どんな命題も“矢印”をもとに考えていけばいいのです。このとき、矢印は常に左から右に向かうように書くようにします。書く向きを常に一定にすることで、十分条件と必要条件を混同してしまうリスクをより下げるためです(本質的には、右から左に向かう方向に固定してもいいですが、一般的には左から右の方向に固定した方が良いと思います)。
そうは言っても、スタート地点が十分条件だっけ?それとも必要条件?と、ど忘れしてしまうかも。ということで、次の項で僕なりの覚え方を紹介したいと思います。
十分条件と必要条件の定義の覚え方
前項で、→のスタート地点が十分条件で、ゴール地点が必要条件だと説明しました。じかし、どっちがどっちだったかど忘れしてしまうかも。それを防ぐ覚え方があります。それは、
「待ち合わせ場所には、十分前に着くことが必要」
というフレーズを覚えておくということです。
このフレーズを覚えておけば、「十分前が先に来るから十分条件がスタート地点で、必要が後に来るから必要条件がゴール地点だ」と、間違えることなく思い出せると思います。(十分条件→必要条件)
さて、用語もきちんと覚えたところでいよいよ本題に入っていきましょう。
①不等式パターンの解法
まず一つ目のパターンは、不等式が絡んだ命題問題です。例題を出しましょう。
実数aに関する条件P,Q,Rを次のように定める。
P:a2≧2a+8
Q:a≦-2またはa≧4
R:a≧5
(1)次の空欄に当てはまるものを、下の[0]~[3]のうちから一つ選べ。
QはPであるための□
[0]必要十分条件である。
[1]必要条件であるが、十分条件でない。
[2]十分条件であるが、必要条件でない。
[3]必要条件でも十分条件でもない。
(2)条件Qの否定をQ、条件Rの否定をRで表す。次の空欄に当てはまるものを、下の[0]~[3]のうちから一つ選べ。ただし、同じものを繰り返し選んでもよい。
命題「Pならば□」は真である。
命題「□ならばP」は真である。
[0]QかつR
[1]QまたはR
[2]QかつR
[3]QまたはR
・・・
どうですか?
この問題をあなたが自分で生徒に解説する場合、どのように解説していこうか道筋が立ちますでしょうか?
この問題は2009年のセンター試験で実際に出題されたものです。不等式パターンの命題問題としては典型的な問題ですね。この問題の(2)を実際に解きながら具体的に解法を説明していきたいと思います。
Ⅰ.不等式を簡単な形にする
最初にすべきことは、不等式を簡単な形に変形する(不等式を解く)ことです。
この問題では、不等式Pを解くと「a≦-2またはa≧4」となります。不等式Qおよび不等式Rはこれ以上簡単にならないのでそのままです。つまり、条件は以下のように書き換えられます。
P:a≦-2またはa≧4
Q:a≦-2またはa≧4
R:a≧5
(この書き換えによって、QはPであるための必要十分条件になっていることは明らかですね・・・つまり(1)の解答は[0]になります)
否定は次のようになります。
P:-2<a<4
Q:-2<a<4
R:a<5
(2)の選択肢の条件についても、不等式の形で表しておきましょう。
[0]QかつR:a≦-2、4≦a<5
[1]QまたはR:aはすべての実数
[2]QかつR:-2<a<4
[3]QまたはR:a<5
Ⅱ.どっち向きの矢印が成立するか考える
条件を簡単な不等式で表すことができたら、次はいよいよ命題の矢印がどっちからどっちに向くかを考えます。矢印の向きを考える、と一言で言いましたが、この段階を苦手にしている受験生も多いと思います。ここで、意識してほしいのは、「AならばB」という命題が成立するとき(ただし、「BならばA」という命題は成立しないこととします)、つまり「A→B」が成立するとき、
Aの範囲がBの範囲の中に入っている
ということです。ベン図を書いて表現すると以下のようになります。
逆に言えば、
Aの範囲がBの範囲の中に入っていれば「A→B」すなわち「AならばB」という命題が成立します。
この感覚を納得してもらうのに僕がよく使う例は、「日本人ならば地球人」という命題です。日本人というカテゴリー(範囲)は明らかに地球人というカテゴリー(範囲)の中に入りますよね?どんな例で考えてもいいのですが、この考え方の感覚は必ず身につけてください。
さて、この感覚が理解できたら、あとはAの範囲がBの範囲の中に入っているか(AはBの十分条件)、Bの範囲がAの範囲の中に入っているか(AはBの必要条件)、もしくはAの範囲とBの範囲が完全に一致するか(AはBの必要十分条件)、もしくは上記以外の関係になっているか(AはBの十分条件でも必要条件でもない)を確認すれば、正解が導けるはずです。
この四つのうちどの関係になっているかを見るには、不等式パターンの問題では、ベン図ではなく数直線図を考えるのが一番わかりやすいです。
数直線図を見ると、Pの範囲は(QまたはR)の範囲の中にすっぽり入ることが分かります。つまり、「P⇒(QまたはR)」は真です。同様に、(QかつR)の範囲はPの範囲の中に入ります。よって「(QかつR)⇒P」は真となります。
まとめ
命題問題の解法について解説しましたが、いかがだったでしょうか?
ここで①不等式パターンの解法の流れをもう一度確認しましょう。
不等式を簡単にする(不等式を解く)
↓
A→B、B→A、A↔B、のどれが成り立つかを、AとBの範囲を比較して考える
数直線上で考えるとわかりやすい
次回は②整数パターンの命題問題の解法を紹介したいと思います。ただ、考え方の本質としてはほとんど一緒なので、今回の考え方をきちんと理解しておくことが重要です。