現代文は主張と根拠の集まりにすぎません
前回は論理の定義から始まり、その中枢である主張と根拠について解説しました。そして文章中にある主張と根拠をそれぞれ、どのように理解すればいいかを解説しました。
今度は主張と根拠の集合である、文章全体の構造をどう理解するとよいのかについて解説したいと思います。
水平論理と垂直論理
論理には2種類あるといえます。1つは水平論理、もう1つは垂直論理です。水平論理とは、ある主張を行うために、複数の根拠を添える構図を指します。例えば
死刑制度は廃止すべきである。死刑はすごく残酷なものであるし(①)、死刑が犯罪抑止に働くという統計データも存在しないからだ。(②)
死刑は廃止すべきである、という主張に対して、①と②と、2つの理由を添えています。これが水平論理です。一つの理由に対して、複数の理由を添えること、複数の事実を添えることを指します。
もう一つは垂直論理です。垂直論理とは、前回の記事でお話しました、連鎖型のことを指します。つまり、ある根拠からある主張を導出したら、今度はその主張がまた別の主張のための根拠になるということです。
垂直論理は、1つの根拠から思いもしなかった主張を導くことが便利な構図ですが、逆に説得力にかける事が多いです。例えば「風が吹けば桶屋が儲かる」 これも典型的な垂直論理です。
水平論理は、説得力を持ちますが、あまり新しいことが言えません。
垂直論理は、説得力を持ちませんが、かなり新しいことが言えます。
実際に文章を分解する技法
みなさんが読む文章というのは、垂直論理・水平論理のどちらかにカテゴライズされているものというわけではなく、水平論理と垂直論理を合わせた構図になっているのです。それを図示すると、以下のようにピラミッド型といえるでしょう。
実際の文章は、上図のような構図を、具体的な文字として体現されているものです。皆さん、特に生徒さんは、文章の背後にあるピラミッド構造をどうやって抽出するのか。それが現代文を読み解く鍵となります。具体的な方法は以下のとおりです。
① まずは段落ごとの要約
ミクロ編で行ったことを参考に、文と文の関係を理解し(同じ話なのか、そこに区切りがあるのか)、段落ごとを要約してみてください。ピラミッド構図のボックスに配置するものがわかっていなければ、どうしようもないですからね。
② 段落ごとの要約がどう関連しているかを読み取る
段落ごとの要約を、再び一つの文とみなして、他の文とどう関連しているかを読み取ります。というより、その段落はどの段落の根拠となりえるのかを考えるのです。主張と根拠の関係をここでも使うわけですね。
段落と段落の関係
ところで、段落と段落の関係は、単純な主張と根拠の関係にとどまりません。前の段落が後ろの段落の根拠になることはよくあることなのですが、その形態は本当に多様です。
・抽象と具体(言い換え)
前の段落ではわけのわからない難しい言葉で説明されていたことを、次の段落では何の前触れもなく、少し平易な言葉で言い換えていることがあります。
・主張と具体例
前の段落の主張の根拠として、いきなり具体例を挿入してくる場合があります。その場合は具体例が抽象的には何を言わんとするのかを理解しなければなりません。
・逆接
単純に読者の興味を引くために、一般論を語るだけの段落を書いたあとに、逆接で筆者の主張に引き込みます。この場合、逆接の前にある段落をピラミッド構造に含めないように考えることが重要です。
・転換
まったく別の話をするとき。水平論理のときによく見られます。ある主張を支持するときにある根拠を述べた後に、また別の根拠を述べようとすると転換の技術を使うことがあります。
なんとなくわかってきませんか?実は文と文をつなげるものには接続詞というのがありますが、段落と段落の関係も接続詞で体現することができるのです。その段落と次の段落の要約が、どんな接続詞で結びつけられるのかを考えてみてください。そうすると、マクロ視点の論理の構造が見えてきます。
まぁ結局どれも主張と根拠みたいなものなんですけれどね。そこは何度も訓練してるとわかってきます。
そしてピラミッドを完成させたら、この文章の要約は完成します。むしろ要約以上のものが完成します。この文章が結局何を主張したいのかはわかりますし、それはどのような理由で主張されているのかもわかります。各段落の役割もひと目でわかります。
もちろん、これは膨大な作業を要するので、入試のときに行うことは実践的ではありませんが、生徒の読解力を養成するときはかなり便利です。最初のステップの段落の要約を作る段階から、1文1文を噛みしめる必要があります。その文が何を意味し、他にどう影響するのかを考えてくれます。そして次の段落ごとの関係性を考えるときには、この文章が結局何を言わんとするのかを考えます。
とにかく生徒に考えさせるのがこの手法なのです。
実際にどのような授業を行うのか
あくまで私の例を紹介します。まず私は生徒に要約させる文章は読みません。というのも、要約というのは、初めて読む人が読んだときに、意味がだいたいわかるものでなくてはならないので、その「初めて読む人」に自分がなるためです。
段落ごとに要約する
まずは生徒に段落ごとに要約してもらいます。もちろんいきなりできる人なんて少ないとは思いますが、とりあえずやってもらいます。
質問する
要約し終えたら、それを読んでもらいます。そして先生から質問します。「○○ってどういう意味?」「○○だったら☓☓、と言っているけれど、どうして?」とかとか。文中には筆者独特の表現方法があったりするので、それの確認をしたり、文中にある論理を読み取れているのかの確認をします。私はまだその文章を読んでいないので、純粋にわからなかったことを質問すればいいのです。そして生徒が答えに窮するようでしたら、「今の質問の内容は文中に書いてない?」と確認し、「書いていない」という回答がきたら、筆者が悪いということにして、次に進んでもらいます。
ピラミッドを作る
生徒には予めピラミッド構造の知識を教えているという前提で、各段落の要約を使ってピラミッド構造を作ってもらいます。
再び質問
段落と段落が、どうしてそのような関係になるのかを聞きます。第1段落が第2段落の根拠になっているとピラミッドで説明されているのならば、それはどうつながっているのかを、質問を通じて確認します。
全体の要約を作ってもらう
最上位の主張はわかっているわけですから、それを踏まえて全体の要約を書いてもらいます。だいたいノートで3行ぐらい。そしてその文章を読んで、講師である皆さんが理解できたら、合格ということにするのです。
あくまで質問しかしないスタンスを貫きます。生徒からしたら地獄のような現代文の授業ですが、質問されるという恐怖から文章をしっかり読み込もうとしますので、けっこう便利ですよ。
本当の一番の訓練は、実際に書くこと
文章を段落ごとに分けて、要約して、関係を考えて、また要約する。
論説文の読解だとこの順序になるのですが、実際に文章を書く、あるいは作文になるとこれの逆パターンを行うことになります。
つまり、
- まずは自分の言いたいことを考える(全体の要約)
- 言いたいことに説得力を持たせるように、段落を考える(段落とそれらの関係)
- 段落の内容を細かくする(段落の要約、の逆)
といった感じに。
実際に自分が文章を書くことは、自分の知っている知識の中で文章を書くことになるので、純粋に論理だけを考えればいいということになります。そして論理だけを考えた上での文章を何度も書くと、やはり論理力は飛躍的に向上します。
高校生にもなると、論理的な文章を書く機会は小論文ぐらいしかありませんが、小論文の勉強は、実際に受験しない人もやっておくといいかもしれません。
あれこそ、論理を鍛えるための最高の機会なのです。
まとめ
現代文は確かに難しいです。それは背景にある論理にそもそも公式なんてものが存在しないからでしょう。けれど、生徒が文章をきちんと理解しようという気持ちを維持して学習すれば、必ず国語力は身につきます。そのためには、授業中にいかにして生徒に考えさせる時間を作るか、です。
要約は確かにすごく難しいのですが、ある程度の論理の知識さえあれば、質疑応答を繰り返した、淡々としていない授業を行うことができ、しかも思考訓練ができます。生徒もそんなに飽きないはずです。
たまに文章に関連する個人的な質問をするといいかもしれません。「筆者はこういっているけど、実際のところどう思う?」
なんだかんだで、人間って考えることは好きなので、その考える楽しさを生徒に気づかせてみてはいかがでしょうか?
現代文・小論文はその良い機会です。
この記事が、皆さんの国語の授業に役立つことを願っています。
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