中世における仏教
前記事「日本の仏教の教え方②」(URL:http://www.juku.st/info/entry/787)では、鎌倉時代新仏教
のうち、浄土宗系の流派を組む3つの宗派を紹介してきました。
簡単におさらいします。鎌倉新仏教には大きく分けて「浄土宗」と「禅宗」の2つの流派があり、
「浄土宗」は自分の力ではなく、仏への信仰によって極楽浄土へ行くことができる=救われるという
”他力本願”がそのベースにありました。
浄土宗は信仰を示すために「唱名念仏」、「南無阿弥陀仏」と唱える回数を重要視したのに対し、
弟子の親鸞が開いた浄土真宗は大切なのは「信」であるとし、質を重視しました。
さらに、時宗の一遍は仏は信仰するもしないも差別せずに救ってくれる。
大乗仏教の典型例だという部分まで説明してきました。
本稿でこれから説明する「禅宗」は、日本にある宗派の中で最も釈迦の考える仏教に近いものです。
他力本願の浄土宗に対し、”自力本願”、つまり出家をして自力で修行して悟りを得なければならない
という考えを持っています。
禅宗系仏教―曹洞宗、臨済宗―
他力本願の仏教では仏の偉大さにすがることで、救いを得る考え方でした。
禅宗は自力で修行をすることでその偉大な仏に近づいて行く、という考え方なのです。
自力本願の修行をしていくためにはどうしたらよいのか。具体的に各宗派の特徴を確認してみましょう。
臨済宗
まずは、臨済宗です。開祖は栄西という人物ですね。栄西は天台宗出身で、天台宗の教学や密教を学んだ後に
中国で禅宗を学び帰国しました。
栄西は「座禅」の重要性を主張します。座禅によって自力で悟りを開く。
これが禅宗、そして臨済宗の根本の部分です。
臨済宗の特徴としては、座禅をしている際の「公案」があげられます。
公案とは一種のクイズのようなものでして、例えば手をぱちんと叩いた際に、音がなったのはどちらか?
空が青いのはなぜか?一種の無理難題のようなものを延々と考えている間に悟りを開く、というものです。
栄西の主著『興禅護国論』には上記のような考え方が載っているのですが、実は教義などのほかに
この著書にはもう1点意義があります。
当時、栄西の創始した臨済宗は日本にとって最初の禅宗でした。
ここで南都北嶺が出てきます。南都北嶺というのは興福寺と比叡山延暦寺のことなのですが、
奈良時代、ないし平安時代から仏教の研究をしており、
歴史的に自分たちより浅い新興勢力の禅宗が流行るのは南都北嶺にとっては面白くありませんでした。
こうした背景もあって、それまでにない禅宗の考え方や修行法を”異端”であると激しく非難します。
栄西は、こうした非難を受け、今で言う世論が南都北嶺の非難に傾いてしまうのではないか、
そうすると自らの宗派が宗派として確立できなくなる。と考えます。
そこで栄西は「禅」を「興」すと、国を「護」るのに有用である、つまり、
禅宗が国にとって非常にメリットのあるものであると具体的に力説したのです。
この主張が最終的に受け入れられ、政治権力と接近することに成功します。
ただ、自らの宗派の正統性を主張するのではなく、「国にとって」有効であることを具体的に
言及する。この栄西の聡明ぶりが現在にもつながる禅宗の隆盛につながるのです。
曹洞宗
次に、曹洞宗です。曹洞宗の開祖である道元は、中国で勉強した際に、
「必ず出家して厳しい修行を経なければならない」ということを徹底的に学んできました。
先ほど、禅宗というものは日本では釈迦の考え方に最も近いという話をしたのですが、
道元自身も、曹洞宗は釈迦の教えを最も正当に受け継いだ仏教と自負していました。
なので、道元の考えには、皆が救われるという大乗仏教的考え方ではなく、
自分で修行をして悟りを開き、出家をする、というまさに釈迦の時代の考え方に近いものがありますよね。
さて、では具体的にどう修行すればよいのか。道元が学んできた方法とは「只管打座」というものです。
読み方の通り、”只管”(ひたすら)”座”禅に”打”ち込むという意味です。
本稿は指導法の記事なので、筆者が道元の座禅を重視した理由の説明を紹介したいと思います。
まず、開祖である釈迦が仏教を創始しました。その系譜の途中で南インドに達磨(ダルマ)大師という
人物が実在しました。
この達磨大師は修行のために洞窟の中で9年間座禅をし続けます。
道元は中国でこの達磨大師の系譜をひく坊のもとで修行をしました。
先ほど、道元は釈迦の教えを重視していたという話をしました。
釈迦の教えを引き継ぐ達磨大師、そしてその達磨大師の弟子の弟子であった道元は
教えを引き継ぐのだという意識を強く持っていました。
こうしたことから、達磨大師の座禅修行を自らの曹洞宗にも取り入れたのです。
尚、達磨大師は9年間洞窟の中で座禅をし続け、最終的には手足が腐って落ちてしまった
と言われています。
よく見るダルマがこのような形になっているのは上記のような理由からなのです。
筆者が勤務していた塾にはダルマが置いてあったので、授業で曹洞宗を扱う際には、教材として
生徒たちに提示していました。もし、皆さんの務められている塾にもダルマがありましたら、
使ってみてはいかがでしょうか?
法華宗の流れ
さて、ここまで、禅宗の2宗派について述べてきました。これから説明する鎌倉新仏教6つ目の日蓮宗は
禅宗の流れは組んでいません。
日蓮宗は日蓮によって創始された天台宗の根本経典である『法華経』信仰に基づく、救国を唱えた宗派です。
この日蓮宗は現在にもつながる宗派なので最も現在の政治などと関連付けやすい部分です。
日蓮宗
今紹介した通り、日蓮は、天台宗出身の僧侶です。
筆者の拙稿「世界3大宗教の教え方③仏教」(URL:http://www.juku.st/info/entry/772)
を良ければご参照いただきたいのですが、仏教には以下の様な格言があります。
「仏教の悟りは1つの山のようなもの。山であるのならたくさんの登山口があっても良いはずである」
つまり、考え方の幅広さにとても寛容な宗教なのです。なので、仏教そのものの捉え方、
方法論について他派を否定することは基本的にありません。
(先程の南都北嶺も考え方を避難していますが、存在そのものは否定していません。)
しかし、日蓮は例外です。こうした多様さを認めませんでした。
『法華経』のみが唯一正しく、それ以外の宗派は全て間違っていると主張するのです。
仏教の宗派にしてはある意味、非常に攻撃的な考え方ですね。
考えは行動となり、他宗派に対して、こうした主張を繰り返します。さらに、
政府に対しては主著『立正安国論』を提出し、法華経信仰をして他宗派を禁圧しないと国難が訪れる
という忠告もしたため、弾圧を受けることになります。
日蓮の教えの特徴は「題目」、すなわち「南無妙法蓮華経」という7文字を唱えることで救われると考えます。
「南無」というのは「帰依します」という意味なので、「法華経の教えを信じます」と唱えることが
大事ということですね。
日蓮宗は日本の13あると言われる仏教各派の中で、現在最も強い影響力を持っている宗派です。
ご存知公明党の母体の創価学会はこの日蓮宗の宗教なのです。
仏教の歴史を紐解いていくと、日本も歴史と宗教と現代社会が入り組んでいるということがお分かりいただけると思います。
まとめ
ここまで、2記事にわたって、鎌倉新仏教の6宗派を紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
最後に、鎌倉新仏教の指導にあたって重要な点を2点示して結びとしたいと思います。
①他力本願と自力本願に分けて説明をすること
本稿と前記事を通して、決して6つの宗派がバラバラにそれぞれの考えを持っているわけではなく、
浄土宗系、禅宗系、最後には法華経を重視する流派があることがお分かりいただけたと思います。
それぞれの交わる部分と交わらない部分をより明確にするためにもこうした事を意識するようにしましょう。
②現代とのつながり
日本は、幸いにもパレスチナ問題のような宗教による大規模な争いは少なくとも現代にはありません。
しかし、だからといって全く宗教と無関係な社会ではないことがお分かりいただけたと思います。
アプローチの仕方は様々ですが、現代とのつながりを示すことで生徒にとって学ぶ意義がより深くなります。
常に現代の我々が学ぶ意義を考えながら授業をしていくようにしましょう。
以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!