バブル景気をいかに説明するか
高校の政治経済の経済分野において「バブル景気」はセンター試験でも2次でも頻出問題です。
そのため、授業でも必ず取り扱うのですが、バブル景気を教えるとなると、
当時の外交関係を含めて指導しなければならないため、話をまとめるのがとても大変ですよね。
なぜ重要かは後述しますが、現代経済史においても非常に重要な出来事です。
バブル景気は、様々な要素が絡みあっている特殊な景気なので、教える部分と教えない部分の取捨選択も迫られます。
本稿では、上記の問題意識のもと
バブル景気の全体像を生徒がわかりやすく理解する方法
をご紹介します。
コンテンツ
1.バブル景気とは?
まず、バブル景気そのものの意味について考えてみましょう。
バブルとは、日本語に直すと「泡」という意味ですね。
なぜこのような言い方をしているのか。
それは「泡のように膨張はしているのだけれどそれははかなくもすぐに破けてしまう」ことからこの比喩が使われています。
つまり、
一時的には良い意味で膨れ上がっているように見えるけれど、中身は全くない経済
という意味です。
経済学での学術的な定義としては
バブル景気:「実体価格をこえた資産価格の上昇に伴う加熱景気」
とされています。
とはいえ、こうした用語を初めてちゃんと勉強する生徒にとっては、イメージがわきづらいと思います。
むしろ、ますます分からなくなってしまうかもしれません。
なので、そもそもバブル景気がなぜ起こったのか?そこから説明に入ります。
<ここがポイント>
バブル景気の抽象的な概念を説明しよう
2.プラザ合意が日本にもたらしたもの
まずは、1985年まで時代をさかのぼっていきましょう。今から約30年前のことですね。
この年の世界経済の最大の特徴としてあげられるのが、アメリカの景気が停滞していたことです。
その主たる原因は、様々な要因が重なってドル高が進んでいたからでした。
ここで、必要ならば以下のことを授業で確認してあげてください。
例えば、円との相場(Ex.1ドル=100円)で考えます。
- ドル高→ドルの価値が上がるため、少ない額で円を買える=輸入有利(1ドル=80円) 輸出不利
- ドル安→ドルの価値が下がるため、大きい額で円を買える=輸出有利(1ドル=120円) 輸入不利
「ドル高」になっていたということはつまり、輸出産業が不振に苦しんでいたということですね。
国内の企業が輸出でモノを売ることができず、アメリカの経済は停滞してしまいました。
そこで、アメリカはNYでG5(アメリカ・フランス・イギリス・ドイツ・日本)による秘密会談を設けます。
目的は、ドル高是正のための協調路線を作ることでした。
なぜ、アメリカ1国のために各国が協調する方針を示したのでしょうか。
結論から述べると、それはアメリカの世界経済における影響力があったからです。
当時から世界の経済の中心はアメリカでした。
そのため、アメリカが不景気であるとやはり世界にとってもよくない経済影響が起こるはず・・・
こうした考えがあり、各国財政を担当する大臣は契約に同意したのです。
アメリカのニューヨーク、プラザ・ホテルに於いてなされた合意だったので
これをプラザ合意(1985年9月)と呼びます。
<ここがポイント>
アメリカ経済の復調のため、プラザ合意でG5がドル高是正の方針に合意した
3.円高不況への対策
さて、このプラザ合意によって、どんな動きが生まれたでしょうか?
結論から述べると、プラザ合意をした各国は所有しているドルを大量に売りました。
そうすることで、流通しているドルの量が増やすためです。
お金以外もそうですが、基本的にモノというのは世の中に出回っている量が多いほど、価値が下がります。
結果、国際社会に出回るドルの量が増え、「ドル高」→「ドル安」への政策が成功しました。
ここまでがアメリカ経済の話です。
では、この「ドル売り」をしたことで、日本の経済にはどのような影響があったか考えてみましょう。
まず、アメリカ経済がこのような状態で「ドル安」になったということは、
日本は例えばそれまで1ドル=250円だったものが1ドル=100円で買えるようになる。
という事になります。円の価値が上がる、つまり「円高」になりますよね。
ややこしい部分なので、再掲します。(1ドル=100円の相場の時)
- 円高→円の価値が上がるため、少ない額でドルを買える=輸入有利(1ドル=80円) 輸出不利
- 円安→円の価値が下がるため、大きい額でドルを買える=輸出有利(1ドル=120円) 輸入不利
上記のとおり、「円高」になると輸出産業が伸び悩みます。
アメリカ経済を立て直す協力をしたことで、今度は日本が輸出に伸び悩み、
「円高不況」という状況に陥ってしまいました。
<ここがポイント>
アメリカ経済再建への協力をしたことで、今度は日本が不況に追い込まれた
4.不況となって、政府は以下に対応したか
次に、「円高不況」追い込まれた日本政府の対応を見ていきましょう。
このあたりからやっとバブル景気のしっぽが見えてきます。
結論から述べると、「円高不況」の際に、政府は①財政出動②金融緩和の対応を取りました。
①財政出動
不況とはつまりところ、経済が滞っている状態のことをさします。
それをさらにかみ砕いて言えば、消費活動、生産活動がともに行き詰まっている状態です。
このような状態を打開するため、政府は公共事業などに投資をして経済の活発化を狙いました。
国ほどの大きな組織が公共事業にお金を使うとなるとそれだけで大きな経済効果があります。
経済活動はお金が動くことによって活性化するからです。
②金融緩和
次に金融緩和です。
金融政策とは具体的に「公定歩合」の引き下げを意味しています。
公定歩合:日本銀行が民間銀行へお金を貸付ける際の金利のこと
この金利が下がれば、利子の割合が少なくなりますから、民間銀行は日本銀行にお金を借りやすくなります。
民間銀行が借金しやすいと、(民間)銀行と提携している企業に対しても融資がしやすくなるのです。
融資を受けた企業はその資本を基に、新たなサービスを始めたり、設備投資にお金を回せる・・・
というような相関関係があるわけです。
<ここがポイント>
円高不況に対して、日本政府は「財政出動」「金融緩和」2つの策をとった
5.不況対策の結果
さて、日本政府のこうした経済対策がなぜ、バブルにつながっていったのか。
具体的な流れを追って確認していきます。
①銀行がお金を借りやすくなる
前述した通り、公定歩合の引き下げによって銀行はお金を借りやすくなります。
銀行が資金繰りをしやすくなると、その資金を利用して民間企業への融資が積極的になります。
銀行は貸しつけた際の金利によって利益を得ることができるからです。
②会社の設備投資へつながる
融資を受けた企業は、その資金を元手に設備投資へと動き出します。
銀行への返済分を差し引いても利益が出せるようにしなければならないからです。
具体的には、生産量を増やすために新たに工場を作る企業が多くなります。
③工場を作るための土地購入
そうなると、今度は工場を作るための土地購入の戦いが始まります。
例えば、1つの土地を買おうとしていても、その土地を複数の企業が狙っていたらどうなるでしょうか?
当然売り手としては、高い値段で買ってくれる企業に売りますよね。
1つの土地だけでなく、多くの場所でこうした売買競争が起こったため、土地の値段が上がっていきます。
④土地の値段が高くなる
さて、土地の値段が上がるというのを、土地を持っている側の視点から考えてみましょう。
例えばある企業が5億円で土地を買ったとします。
しかし、③のような状態が起こっているため、その企業の持つ土地が6億、7億・・・
と持っているだけで価格が上昇していきます。
⑤不動産業への進出
そうなると、工場で製品を作らなくとも、価格が上がって土地を売れば儲けが出ますよね。
このように色々な企業が土地を買う→土地を担保にしてまたお金を借りる・・・
という事が起こりました。
こうなると様々な企業がこの土地を利用するビジネスに目をつけるようになり、不動産への進出を始めます。
これを財テクと呼びました。
<ここがポイント>
「土地」の売買競争によって、不動産業に進出する企業が多く出現した
まとめ
本稿では、「バブル景気の教え方①~なぜバブル景気が到来したか~」というテーマのもと、
「土地の価格はどのように上昇していったのか」順を追って説明してきました。
バブル景気というのは状態を説明するだけでは、その全体像をつかむことが出来ません。
前後の動きを追うことで、因果関係もつかめるということがお分かりいただけたと思います。
最後に、冒頭で述べた定義を振り返りましょう。
バブル景気:「実体価格をこえた資産価格の上昇に伴う加熱景気」
というものでした。
本稿で述べたように土地の値段がどんどん上がっている状態を目の当たりにして
「これだけ土地の価格が上がっている。今日本経済はものすごく景気が良いのだろう」
と多くの国民が思ってしまっているような状態ということです。
しかし、それはしょせん「バブル(泡)」。はかなくはじけてしまいます。
次稿では「なぜ、バブルははじけたのか」そして「株」について説明したいと思います。
以上です。ここまでお読みくださりありがとうございました!
<シリーズ完結編>