はじめに
前記事「【社会科講師対象】”裁判所”の概要と仕組みをわかりやすく説明する方法①~刑事裁判と民事裁判~」では、
- そもそも裁判とはどのようなものなのか
- 日本国憲法ではどのように規定されているのか
- 民事裁判と刑事裁判の違いとは何か
ということについて、初習の中学生がわかりやすく理解できる指導法をご紹介しました。
前記事で2つの「裁判」についてご紹介したのに対して、本記事では
①「裁判所」にはいくつ種類があるか
②それぞれの「裁判所」が果たす役割とは何か
③「三審制」の仕組み
に、焦点を当てていきます。
よって本稿では
”裁判所”の種類と「三審制」の仕組みを生徒がしっかり理解できる
ような指導法をご紹介します。
裁判所の種類
それでは、内容に入っていきましょう。
突然ですが皆さん、
- 日本にある「裁判所」の種類はいくつあるか
- それぞれの裁判所を何と言うか
ぱっと思い出せるでしょうか?
中学校の社会で皆さん学んだことがあると思うのですが、意外と思い出せないことかもしれません。
役割がなかなか細かくて、刑事裁判と民事裁判でも仕組みが違うからです。
何より、普段の生活であまり裁判は身近なものではないですし、誰しもできれば裁判所とは無縁の人生を過ごしていきたいですよね。
そのため、なかなか裁判の知識を日常に役立てる機会はないかもしれませんが、裁判所は法治国家である日本の大事な役割を担っているので確認していきましょう。
「裁判所」の種類は全部で以下の5種類があります。
○裁判所の種類
①最高裁判所
最高裁判所長官1人と、14人の裁判官で構成されており、全国に一つだけおかれる最上級の裁判所。裁判における最終決定機関であり、法律が憲法に違反していないかどうかの最終判断も行う。
②高等裁判所
全国8か所(東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松)の大都市に設置。
第二審を取り扱う。
③地方裁判所
各都道府県に1か所(北海道は4か所)の計50か所に設置。主に第一審を扱う
④家庭裁判所
地方裁判所と同じところに設置されている。そのため数も同じ50か所。離婚などの家庭内トラブルであったり、少年事件の裁判を扱う。
⑤簡易裁判所
全国に438か所設置。軽い事件の裁判を扱う。
最高裁判所を頂点として、それぞれ段階を踏んだ裁判が行われることが読み取れると思います。
「三審制」の仕組み
それでは、いったいなぜ裁判には5種類もあるのでしょうか?それをここから考えていきましょう。
結論から述べると、上記の説明にも書いたように、日本では「三審制」という形式を採用していることが大きく関わっています。
具体的な説明に入る前に、以下の図をご参照ください。
これが、現在の日本の裁判の仕組みです。
経験上、裁判の仕組みは言葉による説明よりも図式化したものを見ながら説明を聞く方がわかりやすいので授業では資料集や教科書にあるこうした図を用いながら生徒に説明してあげましょう。
話を戻します。
まず、「三審制」の意味を確認しましょう。
結論から述べると、「三審制」は、公正で誤りがない裁判を行い、裁判を受ける人の人権を守るためにできた仕組みです。
例えば、裁判が一度だけで終わってしまう場合をイメージしてみてください。
本当は原告(訴える)側の主張は事実と異なることがあるのに、それが第一審の裁判では論破する根拠が足りず「有罪」となってしまった・・・
こんなことも実際に起こりうるわけです。
そこで、上記のように判決に不服がある場合は第2審である高等裁判所に訴えることができ、さらに判決に不服があれば最高裁判所に訴えて最終判断をしてもらう仕組みを整えているのです。
こうした上級の裁判所への訴えそのものを上訴と呼びます。
そして上訴という言葉は使い分けもなされます。
- 高等裁判所への上訴:控訴
- 最高裁判所への上訴:上告
となっています。
赤い矢印はなぜ例外?
さて、「三審制の仕組み」の図をもう一度ご覧ください。
上記の解説で三審制とは要するに3回裁判を受けられる仕組みであるとお伝えしました。
第一審は、図にある通り「簡易裁判所」「家庭裁判所」「地方裁判所」のいずれかで行います。
第二審は、「高等裁判所」で判決を行い、
第三審が、「最高裁判所」であるわけです。
とすれば、「高等裁判所」への訴えは第二審なので「控訴」となるはずですが、図の民事裁判の流れの赤い矢印で「上告」となっている場所がありますね。
ここだけ、高等裁判所への訴えが「上告」という言い方になっているわけですが、一体なぜこうなっているのかを考えてみましょう。
まず、簡易裁判所についてもう一度確認します。
「裁判の5種類」にも書きましたが、「簡易裁判所」とは少額の民事祖訴訟であったり、罰金刑などの軽い刑事訴訟を扱う裁判所です。
地方裁判所か簡易裁判所かの基準額(例:140万円以内の訴訟であれば簡易裁判所etc.)を越えなければ、基本的に簡易裁判所で行うことになります。
迅速かつ簡易に物事を決定できるように全国で最も多く設置されており、国民に最も身近な裁判所として設置されているからです。
しかし、軽度の訴訟においても不服に思う当事者がいれば、上訴することができます。
そうなると、この場合は図のように第二審が地方裁判所、つまり「控訴」となり、第三審が高等裁判所つまり「上告」となるのです。
「三審制」の原則があるので、簡易裁判所→地方裁判所→高等裁判所という流れの裁判の場合高等裁判所からさらに、最高裁判所へ上訴することはありません。つまり、高等裁判所が最終判断となるわけです。
但し、例外として高等裁判所が憲法に違反している疑いがある場合には、最高裁判所に「特別上告」することが認められています。
ここまでの流れを見ていただいてわかる通り、最高裁判所への上訴がすべて「上告」というわけではないのです。
「三審制」のどこに位置するかで呼び方が変わるということをしっかり授業で説明できるようにしたいですね。
まとめ~裁判員制度の目的~
本稿では、
- ①「裁判所」のにはいくつ種類があるか
- ②それぞれの「裁判所」が果たす役割とは何か
ということについて、「三審制」の役割を含めて具体的な指導法も交えて解説してきました。
最後に指導のポイントをまとめると、
テーマ:裁判はいくつあって何回受けられる?~裁判を受ける人の権利より~
○裁判所の種類
(1)裁判所は全部でいくつあるか
(2)五つの裁判所
(3)刑事裁判と民事裁判どちらの裁判で用いる裁判所か
○「三審制の仕組み」
(1)具体的な裁判の流れを確認してみよう
(2)【考察】裁判は何故複数受けられる仕組みになっているのか
(3)上訴と上告の使い分け
○赤い矢印はなぜ例外?
(1)実は裁判には4回目がある?
(2)特別上告とは何か
(3)裁判のどこに位置するかで呼び方は変わる
となります。
このシリーズでも書いてきたように、裁判というのは公正で誤りがないように細心の注意を払って行われています。
しかし、その判決を行う裁判官も我々と同じ人間です。
絶対に間違うことがないという保証はどこにもありません。
そうしたことも含めて、裁判は「公開」が原則となっています。
専門家たちである裁判員の考え方が偏っていたり、不正な裁判が行われていないかどうかを、一般国民の視点で監視できるようにするためです。
次稿ではこの点についてもう少し詳しく掘り下げていきます。本稿は以上です。ここまでお読み下さりありがとうございました。