はじめに
江戸時代は、265年間に渡って続いた、長期の武士政権です。
しかし、この長い年月に政権を維持していくのは、そう容易いことではなかったでしょう。
政治的・財政的な基盤を常に強固なものとし、さらに飢饉や天災など社会不安も取り除きながら、発展させていかねばなりませんでした。
ゆえに幕府は、存続が揺らぐたびに改革へと乗り出していったのです。
そうした背景から、
「享保の改革」「寛政の改革」「天保の改革」と呼ばれる、いわゆる「三大改革」が行われてきました。
(厳密には「安政の改革」や「文久の改革」など、他にも改革が行われていますが、高校受験レベルであれば、これらは必要ありません)
また「田沼意次」による政治も、改革としての名前があるわけではありませんが、行われていました。
(この記事では、一部教科書や参考書で用いられている、「田沼時代」として表記します)
これらは歴史的にも非常に重要であり、また、試験や入試などでもよく出題されています。
ですが、この単元をしっかりと覚えていない生徒も多いです。
今回はこの「三大改革+α」の指導ポイントをお伝えします。
参考までに、授業での板書例を載せてあります。
(記事では板書例に沿って進めるため、適宜参照してください)
板書例
※板書例のように、同じ色を隣合わないように意識すると、見やすい板書になると思います。
指導手順①:事前知識
さて、それぞれの改革について触れていく前に、指導をしなくてはならない内容があります。
前回の記事(【中学生指導向け】理解しやすい指導法④ ―社会:「日清・日露戦争と第一次世界大戦」―)においても同様のことを述べましたが、
まずは、
「改革の順番」と「改革を行った人物とその役職」をしっかりと暗記させるようにしましょう。
改革の内容などを暗記できなかったとしても、この部分だけは決して抜け落ちてはいけません(歴史だからといっても、年号は覚えなくていいと思います)。
順番や人物・役職がしっかり暗記できているだけで、基本的な問題(穴埋めや一問一答形式)は解けるようになるでしょうし、年表問題などではヒントとすることができるでしょう。
逆に、あやふやな記憶で失点をしてしまうことは、極力防ぐようにしましょう。
ちなみに、「役職」は、「将軍」である「徳川吉宗」を除くと、全員が「老中(将軍の政治を手助けする役職)」なので、暗記は苦にはならないはずです。
また冒頭にも記しましたが、改革の裏には飢饉や天災といった、社会的不安が存在しており、それらの解消も1つの目的でした。
このことを踏まえて指導を行っていけば、理解の促進につながるかもしれません。
指導手順②:「享保の改革 ― 徳川吉宗」
「徳川吉宗」は先祖であり、初代将軍でもある「徳川家康」の政治を理想としていました。
(時代劇「暴れん坊将軍」でも有名ですが、あれはさすがにフィクションです)
吉宗は、民衆の意見を聞くことをしっかりと行っていました。
(こうした部分が、時代劇などで扱われた一因でしょう)
民衆の意見は「目安箱(意見箱のようなもの)」に集められました。
現代でも「目安箱」という単語は、時折使われています。
この意見をもとに「小石川養生所」という病院を作りました。
また公平な裁判を実現するために、「公事方御定書」という裁判基準も纏めさせました。
現在の刑法に近いものだと指導するとわかりやすいでしょうか。
さらに、当時、キリスト教は禁止されていましたが、海外の知識や技術を積極的に取り入れるために、
オランダなどのキリスト教に関係のない国の書物の輸入は許可しました。
板書例の「漢訳洋書」とは、「海外の書物を漢字(中国語)に直したもの」という意味です。
日本に持ち込めたのは、オランダのものだったため、必然的に「蘭学(オランダは、阿「蘭」陀と書きます)」が発展します。
また、財政難・飢饉であったために、極力税を取りたいと思った吉宗は、「倹約令」を出しました。
その名のとおり、節約を求める内容でした。
名称は覚えなくてもいいので、「質素倹約」というスローガンは、しっかりと指導してください。
加えて、さつまいも(甘藷)の栽培の推し進めもしています。
このように、米に関する政策を行ったことから、「米将軍」の呼び名でも有名になりました。
「享保の改革」は他の3つと比べて、指導内容が多いですが、同時に重要事項も多いです。
一方的に喋らずに、問答を行うなどして、退屈にならないような工夫を行ってください。
指導手順③:「田沼時代 ― 田沼意次」
先程も書きましたが、改革と名を打っているわけではないので、用語として問われることはありません。
人によっては、「田沼時代」という用語も伝わらない可能性がありますので注意してください。
「田沼意次」は「10代将軍 徳川家治」の「老中」であった人物です。
彼は、「産業の発展」を重要視していました。
そのため、「株仲間」を「積極的」に公認していました。
「株仲間」は同業者集団ですが、独占などを認める代わりに、特別な税を徴収していました。
産業は確かに活発になりますが、結果的には「賄賂政治」になってしまいます。
物価が上がったため、人々の不満も募ったことでしょう。
「株仲間」自体はかつてから有りましたが、積極的に認めるようにしたのは、この頃です。
「田沼意次によって始められた」わけではないので、記述問題などで、そう答えないようにしっかりと指導しましょう。
また、鎌倉・室町時代あたりで学習した、「座」についても、関連事項として確認しておきましょう。
大体の実態は同じですが、混ざってしまう生徒や、「座」自体を忘れている生徒はいると思います。
また、「新田開発」も行っていました。
新たな田ができれば、それほど税を増やすことができると考えたからです。
あまり問われることはないと思いますが、「印旛沼の干拓」は指導しましょう。
また後期には、「天明の大飢饉」も起こり、打ちこわしや一揆が頻発します。
こうした部分にも、当時の社会的不満・不安が見て取れるでしょう。
その他の部分は参考程度の内容です。
とばしてしまっても構いません。
指導手順④:「寛政の改革 ― 松平定信」
改革に当たった「松平定信」は「11代将軍 徳川家斉」の「老中」でしたが、同時に「徳川吉宗」の孫でもありました。
それゆえ、一定の成果を出していた(成功したとは断言はできませんが)、「享保の改革」をモデルとします。
主な取り組みとして、まず、「寛政異学の禁」があります。
これは、「朱子学」のみを公認し、他の学問は公認しないという制度です。
「朱子学」は、目上の人物を敬うなど、武家社会に都合のいいものであったので、幕府の権力関係の維持に用いられました。
そのために、湯島聖堂という建物を「昌平坂学問所」に変更し、復旧にあたりました。
また、「囲い米」という、倉に米を一定量蓄えるよう指示をしました。
飢饉に備えて、少しでも社会的不安を取り除く意図があったと思われます。
そうした制度を取り込むほど、幕府の立場は揺らいでいたのです。
さらに、「棄損令」も行います(こちらは、名称は覚えなくてもいいのですが、内容はしっかりと覚えるように指導してください)。
これは、御家人・札差(将軍の家来)の借金を帳消しにするというものでした。
授業では、鎌倉・室町時代の「徳政令」の確認をしましょう。
(誤った覚え方をさせないように注意)
残りの「旧里帰納令」は、扱わなくても問題ありません。
ですが、この時代を批判した「狂歌」は非常に有名なため、必ず触れてください。
「白河の清きに魚も住みかねてもとの田沼の濁り恋しき」という内容です。
そのままですと、「綺麗すぎる川よりも、多少なり汚れている川の方が魚は住みやすい」と訳すことができます。
しかしその裏の意味は、「松平定信(=白河藩の出身)の(政治)は潔癖すぎる、前の田沼(意次)の(政治の)汚さのほうが、住みやすかった」となります。
(「狂歌の批判対象者」「大体の意味」がなんとなく分かっていれば十分です)
結局6年で失脚したところからも、行き過ぎた政治だったことがわかるかと思います。
指導手順⑤:「天保の改革 ― 水野忠邦」
「水野忠邦」は、「12代将軍 徳川家慶」の「老中」でした。
彼は、幕府の政治・経済的な基盤の安定を目指します。
そこで取り掛かったのが、有名な「株仲間解散」です。
「株仲間」は経済を狂わす原因と考えて、解散させました。
しかしこれは、かえって混乱を生むことになります(後に撤回しています)。
また「アヘン戦争」の結果によって外国を恐れ、「薪水給与令」を発令します。
「異国船打払令」を撤回し、日本に立ち寄った国には、水や薪を支給するようになりました。
さらに「人返しの法」を行い、江戸に出てきた地方出身者を強制的に故郷へ帰らせてしまいます。
触れていない部分は、特にやらなくても、問題のない範囲です。
そして、全体を通してみれば、強引なやり方が目立つと思います。
実際、「水野忠邦」は、その強引さから身を滅ぼしています。
「強引=水野忠邦」と解説して、理解を促すのも1つの手段になるかもしれません。
まとめ
以上に指導法を示してみました。
この部分は重要な範囲ですが、冒頭でも述べたように、
「改革の順番」と「改革を行った人物とその役職」をしっかりと暗記させましょう。
改革の内容の暗記はそれからです。
頭の中で整理して入れるために、その概要から覚えていくというのは有効な手段であると考えます。
それに、1度に暗記させようとすると、拒絶してしまう生徒もいるでしょう。
出来る範囲から始めさせてください。
またここに記した人物は、逸話なども数多く残っていますので、生徒の興味を惹きつけるために、そうした話を調べて、指導内に混ぜてみるのも面白いかもしれません。