政治=遠い世界?
筆者は中学生を対象に塾でも公立学校でも教壇に立った経験があるのですが、
中学校の社会科を指導をしていると、歴史分野よりも公民分野において生徒の知的好奇心が薄れていく傾向があることに気が付きます。
公民分野は歴史のようなエピソードやストーリを感じにくい分、生徒の気持ちが乗りにくい範囲なのかもしれませんね。
確かに、消費税を納めているものの、まだ選挙権を持たない生徒にとっては政治は切実性がなく、
「テレビの中で偉い人が話しているあれ」というような遠い世界のように感じても無理はないでしょう。
しかし、塾講師の皆さんは大半はもう選挙権を持っているのでお分かりだと思うのですが、
政治と国民の生活は本来深く結びついているものです
塾の講師はこの科目を教えることを通して、明日の日本を担っていく中学生に、きちんと政治への理解と関心を持たせるようにしていきましょう。
この記事では中学社会を受け持つ講師の方を対象とした選挙の仕組みの専門的な部分をお伝えします。
具体的な指導法についても言及していきます。
選挙とは何か
まず授業の導入部分では、そもそも民主主義社会という言葉の意味することから考えさせてみましょう。
民主主義社会において、もっとも権力を握っているのは「国民」です。
自分が最も推している候補者へ投票することによって自分の声を政治に反映させることが出来ますし、
ちゃんとした仕事をしない、政策がおかしいなど不満が募った場合には次回選挙で投票を外せばよいのです。
選ばれる側の候補者はそうなると必然的に投票してくれる有権者の声を取り入れた善政をしなければなりません。つまり、投票行動は
国民が政治に参加するために自分たちの代表を選ぶ
ことです。そして、これが選挙です。
中選挙区や小選挙区の仕組み以前にこの選挙の大前提を把握しておかなければ発展的な内容は理解できません。小学校で既習ではありますが、念のために生徒に確認をとりましょう。
中選挙区
選挙の前提をおさえたら次は具体的な中身に入りましょう。現在の日本の政治は小選挙区制を設けていますが、より客観視をするために、中選挙区の仕組みから説明しましょう。
中選挙区制というのは、1つの選挙区から複数の政治家が当選する選挙の仕組みです。
複数の当選者がでるということは選挙で最も票を獲得する第1党だけでなく、2番手、3番手の政党に属する
候補者も選ばれることになります。
そうなるとどうなるか。政権の中に政党が多数存在する「乱立」という状態が起こります。
仮に議席が7ある選挙区で4をA政党が取ることが出来ても、残りの4議席をB議席が2つ、C議席が2つ
というようなことが全国的に起こると政党の中に第2党、第3党が議席を確保することが出来ます。
この中選挙区制の特徴としては、同選挙区の中で複数当選者をだせるため
選挙による政権交代が起きにくい
という特徴があります。少し、この段階では中学生にはイメージが掴みづらいと思うので
次の小選挙区制との比較が有効になります。
小選挙区制
次は小選挙区制です。現在の日本の選挙区は「小選挙区比例代表並立制」という仕組みです。
つまり、中選挙区よりせまい範囲の小選挙区は1つの選挙区から1人しか選出しない仕組みです。
先ほどの例でいえば第2候補、第3候補がいくら頑張って第1党に1票差まで追い上げたとしても、選ばれるのは1人のみです。
この仕組みを理解するにあたり、先ほどの中選挙区との比較が有効になってきます。
例えば、現在はB政党が政権で最も議席数を多く持っている政権運営の政党とします。
ところが、国民からはB政党への不満が募り、逆にA政党に全国的に人気が集中しています。
その状態で選挙が行われるとどうなるか?
全国各地の小選挙区でA政党の候補者が選ばれます。
選挙の結果、A政党が圧倒的多数の議席を確保し、政権交代がおこるのです。
ここまで説明したうえで、最近の選挙の記事(例と同じようなことがありました)
などを生徒に見せてみましょう。すると、生徒が政権交代はこうして起こったということが
すぐにわかります。
このように、小選挙区の特徴は、先ほどの中選挙区制と比べることで
政権交代が起こりやすい
システムであるということを浮き上がらせることが出来るのです。
小選挙区のメリット・デメリット
小選挙区のメカニズムを説明したら次に小選挙区のメリット・デメリットについて話を進めましょう。
中学校・高校生にもここまで深く話をする必要はないかもしれませんが、講師としては専門的な部分でおさえておきたいところなので紹介します。
まずメリットはどのようなものがあるでしょうか?
これは、簡単に言うなら政治に良い意味で緊張感を生み出すシステムだということです。
小選挙区の部分で少し説明したような政権交代が昨今の政治では2回起こっています。
つまり、これまで長く政権を運営してきた政党も、きちんと国民に満足がいくような政策を実行して
いかなければ政権を選挙によって倒されるという意識が生まれているのです。
この意識がより政治を国民にとって満足のいくものにしようというプラスの方に働かせる
可能性を持っているのです。
では、デメリットはどのようなものがあるでしょうか?簡単にポイントを示すと以下のようなものです。
①政党内での世代交代が起こりにくい
例えばある選挙でA党の1人の候補者が当選したとしましょう。
そうなると次の選挙においても、A政党はその候補者を優先して後押しします。
政党は各地で支持を集めておきたいので、一度当選した人が退職するまでずっとその選挙区で当選し続けることがあります。
本来ならば若手をどんどん育てなければいけないのですが、
若手の当選が難しい状態が続くということが起こります。
②範囲の狭い利益
小選挙区は中選挙区に比べるととても狭い範囲での選挙活動であるため、狭い地域の支持を集めるために、
狭い範囲での利益しか考えなくなってしまうということが起こります。
もちろん、地域での利益も大事なのですが、国政選挙でいえば国全体の利益を考えた政策も選挙の争点とならなければなりません。
こうしたことから、狭い地域でも国政レベルでの政策公約が出ているかどうかなどを有権者は見なければなりませんよね。
③実力ではなく人気による当選が起こりうること
本来は政治家としてまだまだ、当選するほど熟していないのに、所属している政党の人気があるために当選してしまう可能性があることです。
よくある現象を紹介します。例えば現行政権への不満が高まってくると次の選挙では、与党ではなく野党に票が集まる傾向があります。
野党側はそうなると議席を確保するために各地域に見栄えのいい人を立候補させようとします。
選挙の際に急に出てきた印象の良い人を見たことがある講師の方も多いと思います。
つまり、政党が候補者を育てずに送り込み、当選してしまうことがあるのです。
本来の順番は
(1)政党が支持を集めるために若手を育てる
↓
(2)育てた若手が各地で支持を集めるために活躍する
↓
(3)当選
という段階を踏むのが自然なのですが、この(1)(2)を飛ばして政治家になるという事が起こってしまいます。
これは有権者側の問題でもあるのですが、本当に政治家としての力がある若手かどうか、しっかりと見極めた上での投票行動が重要になります。
まとめ
ここまで、選挙の仕組みを教えるにあたり、講師側がおさえおきたい専門的な部分まで解説してきましたがいかがだったでしょうか?
本稿では現在の日本の小選挙区とは何を意味するのかを理解するために、中選挙区などとの比較をすると特徴が浮き彫りにできるということ。そして、小選挙区の問題点について述べてきました。
社会という科目の性質上今回の選挙に限ったことではないのですが、
何か難しい用語を説明する際には必ず「比較」をすると生徒にとってわかりやすさが格段と上がるものです。
よかったら本稿で述べたような比較を参考にしてみてください。以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!