社会を理解するために欠かせないもの
高校入試の問題では、中学校の地理・歴史・公民分野を幅広く出題することに加えて
「受験生が社会問題に対してどれほどの関心を持っているか」を問う時事問題が出題されます。
勉強を頑張ってきた受験生は、教科書などに書いてあることについては、しっかり勉強しています。
実力が拮抗すればするほど、教科書に載っている内容では差がつきません。
しかし、時事問題に関しては幅広いニュースに敏感になっていないといけないため、個人差が生まれます。
つまり、時事問題が合否を分ける可能性が十分にあります。
教える側の講師は、中学社会の3分野に加えて、こうした時事問題も可能な限り指導してあげるようにしましょう。
新聞やニュースは中学生にとって、理解することが難しい内容も入っています。
「何が問題になっているのか」「どうして問題になっているのか」について
彼・彼女らの目線で指導していけると良いですね。
本稿では、こうした思いから筆者が予想する入試時事問題の「宗教」が具体的に
「何が問題なのか」「どうして問題なのか」いくつかの事例の
専門的な内容を踏まえながら指導法を紹介していきます。
今なぜ「宗教」なのか?
まず、私が来年の時事問題で「宗教」が狙われると思う理由が2つあります。
1つ目は、連日中東のイスラム教の報道などが話題になっていることです。
2つ目は、21世紀はパレスチナ問題を代表とする宗教をめぐる争いが絶えないことです。
グローバル化が進んでいる現在、そしてこれからの社会を生きる生徒にとって
「宗教」への正確な知識はとても重要なものとなるのです。
宗教教育の重要性
私達日本人にとって、「なぜ宗教が争いを引き起こすのだろう?」と思う方も多いかもしれません。
筆者は大学時代に留学や旅行などで世界各国を訪れた経験があるのですが、
その経験からすると、国によって多少の差はあれど、宗教というものが日本にいるとき
以上に、現地の人にとっては身近なものであることを感じました。
例えば、中東の国へ行くと、入国する際に「Belief」つまり、宗教を問う欄がありました。
筆者は所属している宗教がないので(お葬式などで「~宗だったのか」というのはあります)
英語でないことを書くつもりでいたのですが、その時の空港で働いていた人に
「”Japanese buddist”で良いからとにかく書いておけ」と言われた経験があります。
「神」(もしくは仏)のように
崇める存在がいない=信仰するものをおそれずに危険な行為に出てしまう可能性があると思われるのです。
生徒たちがいつか海外に出た際に、変な誤解を生んで危険なトラブルにあわないようにするためにも、
現在、宗教教育というものは非常に重要なものになってきていると考えています。
しかし、日本人に全く宗教の意識がないのか?というとそうではありません。
例えば、結婚式を神社や教会で行う、そしてもらったお守りを大切にしたり、
お墓にお参りに行く(=先祖崇拝)というのは神道や仏教への信仰を端的に
意味しています。
日本の日常生活の中にも実はかなり溶け込んでいるものですよね。
授業の中ではこうした生徒の日常経験を相対化させることからはじめていくと、生徒も
宗教とは何なのか、関心を持って臨めると思います。
教えたいトピック例:ユダヤ教
さて、それでは生徒たちに何を授業で教えてあげればよいのでしょうか?
「3大宗教」「パレスチナ問題」など色々あると思いますが、
さしあたり、今現在もイスラエル情勢などで大きな話題になっている「ユダヤ教」を例に示します。
本記事は講師の方向けに書いているので
教科書や指導書には載っていない専門的な内容も踏まえて説明します。
ちなみにユダヤ教の起源を理解していないと、第2次世界大戦における
ユダヤ人迫害のことについても理解が届かないので、世界史の講師の方にも参考にしていただけたらと思います。
ユダヤ教とは
ユダヤ教とは、キリスト教やイスラム教よりも先行する世界最古の宗教です。
人類最初の完全な形の「一神教」と言えるでしょう。
この世界に存在するものは全て「神」(ヤハウェ)によって作られた神=造物主とする考え方ですね。
ユダヤ教の教典を『旧約聖書』と言いますが、なぜこれが『旧約聖書』と呼ばれるかご存知でしょうか?
実は、ユダヤ教徒は『旧約』とは呼んでいません。
これは、キリスト教における神との新しい約束(契約)に対して、「旧約」=古い契約という意味で用いられています。
つまり、これはキリスト教徒を中心とした呼び名なのです。
入試で実際にここまで問われることはありませんが、こうした知識を覚えておくと、どっちがどっちだったか
忘れることはなくなります。
ユダヤ教徒は神(ヤハウェ)に守られている民族であるという信仰があります。
これが有名な「選民思想」ですね。この部分がほかの宗教と最も違うところであるという考えです。
このユダヤ民族の中からナザレのイエスという人物が誕生します。後のイエス・キリストのことですね。
ユダヤ人は古来から様々な苦難を抱えている民族でした。
古代、ユダヤ人の国家はイスラエル王国と言われ、強大な力を持っていた時期もありましたが、分裂の後
ローマに滅ぼされ、植民地となります。
これ以降、イスラエル国家が1948年まで復活することはありませんでしたが、その間もユダヤ人はアイデンティティを持ち続け、いつか神の使いである救世主、
たとえばエジプトを出るとき海を真っ二つに割ったモーゼのような人物が現れると願い続けていました。
イエスは、ラビという牧師のような仕事をしていたのですが、「私は神の子であり、間もなく人類は救われる」
という事を言い始めます。ユダヤ教徒ははじめのうちは、待ち望んでいた救世主(メシア)であると
思っていたのですが、期待していた軍事指導者的側面がまったくなく、次第に「メシアを名乗る嘘つきだ!」
という非難が浴びせられるようになりました。
最終的にこれが、イエス処刑へとつながっていきます。これが先ほど説明した『新約聖書』に載っている内容なのですが、ユダヤ総督ピラトという人物はイエスのことを本当に罪にかけるのか
ユダヤ教徒に問い詰めました。『新約聖書』には以下のようなやり取りが残っています。
※内容を簡潔に伝えたいので、1字1区そのままではありません。
ピラト「イエスを死刑にして、本当によいのか?」←後々へと続く長い長い溝を懸念しています。
民衆「イエスの血は私達の子孫にかかってもかまわない」←覚悟の言葉です。
こうして、キリスト教徒にとって、ユダヤ教徒はイエスを死に追いやった”罪人”という存在になっていったのです。実はこれがユダヤ教徒に対する差別の全ての根拠へとされてしまうのです。
このキリスト教徒によるユダヤ教徒への差別意識が「ホロコースト」という悲劇を間接的に生んでしまう事につながるのです。
詳述したいのですが、長くなってしまうので世界3大宗教については別記事を書き、詳細をお伝えしたいと思います。
まとめ
ここまで、実際に宗教の「ユダヤ教」というトピックを説明するときに講師が理解しておかなければならない
専門的な内容も踏まえて説明してきましたがいかがだったでしょうか?
ホロコーストという歴史を教えるとき、その起源をたどっていくと宗教の歴史につながっていくことを
実感していただけたでしょうか。
世界史だけでなく、日本史においても戦国時代の比叡山のような宗教勢力が台頭してきた時期がありました。
実は宗教は歴史を作り上げてきた部分であり、今なお考えなければならない時事問題です。
そうした思いから今回これからも時事問題において狙われるであろう「ユダヤ教」を一例として紹介させていただきました。
何か中学社会や高校歴史を教える皆さんの参考になれば幸いです。
以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!