社会科とは何を教える科目?
社会科授業をつくるにあたって、講師は教材の予習をしたり、提示する資料をたくさんさがしますよね。
その予習や資料集めを通して、様々な狙いをもって社会の授業を行っていると思うのですが、
「社会科って何を教える科目ですか?」とと聞かれたら皆さんだったら何と答えるでしょうか?
「社会科とは暗記科目です」「いやいや、社会科とは暗記ではなく社会の見方を勉強するものである」
「歴史を深く知って 未来につなげるための科目だ」
様々な見方があるゆえに、様々な意見が出てくるのではないでしょうか。
もちろん、どれも正解だと思います。正確に言うならば「正解の一部」だといえるでしょう。
社会科は法律、政治、歴史、政治、経済、哲学、地理などの諸分野に立脚した科目だからです。
故に社会科講師の授業の予習で大変なことはある事象を説明する際にこうした各分野の
研究成果を踏まえて生徒たちに伝えなければならないのです。
具体例を挙げてみましょう。
例えば松方正義のデフレ政策を勉強する際には必ず、インフレ・デフレとは何か、
そのインフレ・デフレが社会にどのような影響を与えるのか、
などを理解するためには必ず経済分野と連携を取らなければなりません。
治安維持法の制定過程も法律学や政治学の知見が必要となります。
また、国家を考える際の哲学者のプラトンの示す「政治的徳」「ポリス」などなど。
間口は広いですが、逆に言えば様々な観点から「社会」を見ることの重要性も伝えやすいと思います。
社会科講師は自分の教える科目の文献だけでなく、こうした幅広い分野の本をまんべんなく読んで学問と学問のつながりを肌で感じられるようにしておけると良いですね。
本稿では、社会科教育に携わる講師が考えておきたい社会科の意味と教育の目標について述べていきます。
社会科を教えることの目標
さて、ここで皆さんにもう1つ考えていただきたいことがあります。
「社会科」を教えることを通して生徒のどのような成長を狙うでしょうか?
授業の延長線上に何を目指すかは講師の方々の裁量次第だと思いますが、
学習の指導基準を示す「学習指導要領」にはどう書かれているか、ここで見てみましょう。
「広い視野に立って,社会に対する関心を高め,諸資料に基づいて多面的・多角的に考察し,我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深め,公民としての基礎的教養を培い,国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う。」
引用元:中学校社会科学習指導要領 URL:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/chu/sya.htm
となっています。この学習指導要領を基に教科書なども執筆されていますので、良ければ上記のURLをクリックして社会科以外にも各教科の目標をご覧になってみてください。
話を戻します。ここで書かれていることを基にいくつかポイントを絞って考えてみましょう。
①「広い視野に立って、社会に対する関心を高める」
まずは冒頭の部分です。
「広い視野に立つ」とは具体的に言うと、偏った1方向からの見方だけにとらわれないことという意味です。
例えば、第2次世界大戦で言えば、日本の加害的な面、被害的な面、双方からの見方などいろいろな
方向から捉えることが出来ます。
これを被害の面だけ強調しすぎると、排他的ナショナリズムをあおってしまいますし、加害面だけ
見せても自虐史観に陥ってしまいます。
おそらく社会の講師の方は今の政治や歴史問題に対して、ご自分の意見を持っていると思います。
私ももちろんあります。しかし、どのような意見を持つかは生徒に任せればよいのであって、
講師の役割は「社会認識を中立的な視点から伝えること」です。
「教化」にならないよう注意をして授業をしましょう。
「社会に対する関心を高める」とは言葉の意味そのままですが、咀嚼して言うと「卒業した後も社会に
積極的に関心を持てるような生徒を育てる」ということです。
社会科授業がないときは、社会に全く関心がない。では困りますよね。
将来選挙権をもって国の政治のかじ取りを決めるのは生徒たちです。そのためにも社会に対する関心を授業を通して高める必要があります。
②「諸資料に基づいて多面的・多角的に考察」
「諸資料に基づいて多面的・多角的に考察」するとは①と、少し似ているかもしれませんが、
ここでは資料の重要性について述べていきます。
社会科学系の学部に所属していた講師の方はご存知だと思うのですが、社会科は「資料」
に基づいた学問です。
以前、別記事でも書かせていたのですが(「日本の歴史を教える心構え~古文書学編~」URL:http://www.juku.st/info/entry/707)
例えば歴史学では「資(史)料のない論文は論文ではない」という格言があります。
資(史)料を根拠にしていなければ学問的成果は全くないという意味です。
当時の史料を基に書いた概説書などではなく、当事者たちによって書かれた一次資料が重要視されるのです。
なぜかというと、こうした根拠がなければそれは「思想」のような空中戦になってしまうからです。
学会などで研究成果を基に議論をするのですが、こうした際にも根拠がないと
不毛な意見の言い合いになってしまうのです。
教科書の歴史記述もすべてこれら一次資料を基に構成されています。
歴史を例に説明しましたが、これは冒頭で述べた社会科諸分野すべてに共通することです。
資料も書く人が変われば当然見方も変わります。
なので資料を読む際にも多面的・多角的にいくつかの側面から読み取らなければならないのです。
③「国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う。」
最後の一文ですね。「国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う。」という部分です。
また質問から入ってしまうのですが「社会科」という科目はいつ誕生したかご存知ですか?
実は1947年、戦後に入ってからなのです。
それまでの「修身・国史」を廃止してこの「社会科」が誕生しました。
日本国憲法が強力な背景としてあるのですが、社会科教育を通して
「二度と戦争を起こさないための民主教育」としての役割を期待されての誕生だったのです。
現在集団的自衛権などで憲法9条の議論が分かれてはいますが、社会科始まって以来のこの根本にある
考えは平和主義を前提としている限り今後も徹底されていくはずです。
また、国家・社会の形成者としてというのは先ほども説明した内容とかぶってしまうのですが、
生徒たちが主権者となった際に、自分たちが作り上げていく社会の一員として、社会を把握するための
方法をちゃんと身に付けられているかどうかということですね。
最後の「公民的資質」という言葉ですが、結論からいうとこれは非常に手あかにまみれた言葉です。
社会科教育の学界では様々な捉え方が意見が対立しているのですが、どれにも共通しているのは
「賢い主権者」としての資質です。
情報に惑わされるのではなく、主体的に社会を把握してそれに対する最善策を考えることが出来る。
そんな資質のことを指しています。
まとめ
ここまで、社会科とは何か。どのような目標をもって設定されているかについて述べてきましたがいかがだったでしょうか?
今回本稿を講師の皆さんに向けて書いたのは、中学校で習う範囲を示している教科書などは、何を基準に作られているのかを知ってほしかったからです。
公立高校の入試などではこの学習指導要領を基に中学校社会科の目標が達成されているかどうかを試す問題を作成しているのでこの学習指導要領を講師が読んでおくことで予想問題作成にもつながると思います。
今回の記事は社会科全般に言えることを述べてきましたが、1つ1つの授業で
「社会科を通して何を教えたいか」本記事をもとに考えていただけたら幸いです。
以上です。皆さんのご活躍をお祈りしております。ここまで長文ご精読ありがとうございました!