経済を初めて学ぶ生徒
経済を学ぶ意義は何か。講師の皆さんだったらこれに対してどのような考えを持つでしょうか?
これは、筆者が新人講師だった頃に、研修をしていただいた先輩に出していただいた問いです。
当時、「経済」というものが具体的にどこからどこまでの範囲を指しているのかが筆者にとっては曖昧で
これに答えることにとても困ってしまいました。
さらに、日頃の生活の中で物を買うなどの最も基本的な経済活動などは何の疑問も持たなくても、
行うことができているので、そのような事を深く追求する必要もない、とさえ考えていました。
今振り返ってみると、非常に浅はかな考え方であったと思うのですが、これはとても重要な問いです。
初めて経済を学ぶ生徒にとってはこうした経済学を学ぶ意義を見いだせないと、
経済を学ぶ目的そのものが漠然としてしまうのです。
中学生はまだアルバイトを経験したことがありませんので、私たち社会人とは違って、自分の預金高を気にしつつ今月はあといくらくらい稼がなければということ(経済の要素の1つである「配分」)を考える子がほとんどいないからです。
教科書を検討してみても、経済活動の意義や、市場経済の仕組みなどが記述されてはいるのですが、
経済を学ぶ意義という点については、触れられておりません。
しかし、経済は国民の生活と密接不可分な関係にあります。
将来性とが有権者となった際に、今論争になっている消費税、東日本大震災の復興予算の使い道などなど
経済の問題をいかに捉え、最善を選んでゆくのか。こうしたことを考えるための基板を作ることが
経済を学ぶ意義なのではないでしょうか。
本稿では、
①生徒の目線で理解できる「経済」
②経済分野の1番初めの授業をどうするか
の2点を読んでいただいている講師の方に参考になる情報を提供してゆきます。
経済とはなにか?
まず、授業の一番冒頭で生徒に対して「経済とはなにか?」という発問を投げかけてみても
良いかもしれません。何でもイメージするものを答えてもらいましょう。
おそらく以下の様な返事が来るでしょう。
・お金の動き
・物を買うこと
・物を販売すること
・・・etc
いかがでしょうか?これらは確かに経済の構成をなす一部ですよね。
しかし、経済「学」という学問分野ですから、これらの要素を体系づけることが必要です。
例えば以下の様な形で指導することができます。
お金が回るということ
おそらく中学生であれば間違いなく一度は経験している「消費行動」を軸に説明してみましょう。
<説明例>
①消費行動
例えば、飲み物でも何でも良いのですが、何か物を買ったとしましょう。
買うためには何が必要か?当然、ここで「お金」を価格の分支払いますよね。
②利益の行き先
商品を買えば、その商品を作った会社に儲けが出ます。
儲けが出た会社はその次にどのような行動に出るでしょうか?
まずは、その会社で働いている人へ「給料」を配布しますよね。働き手がいなければ
会社を存続させることができません。
③次の消費者
そうすると、「給料」をもらった人はそのお金で何をするでしょうか?
当然今度は食事のための材料を買うであったり、休日にレジャーに出かけて高速料金を
払ったり・・・というように次はその人が「消費者」となります。
経済はこのようなお金の動きを指しています。
いかがでしょうか?このように、ポイントを3点に絞ってそれらの具体的な事例とお金の行き先
を説明するだけでも、世の中はお金を中心に回っているということが、見えてきますよね。
お金の動きという観点に関して、もう1点例を紹介します。
日常生活と経済
もう1つの説明例は、生徒の日常生活との関わりです。
ここをうまく説明し切ることができれば「経済」と彼らの生活への切実性を実感させられます。
<説明例>
①朝起きてまず何をするか?
生徒に授業の日の朝、起きてまず何をしたらよいか聞いてみましょう。おそらく、「歯磨き」や
「トイレに行った」「朝ごはんを食べた」というような、返事が来るでしょう。
どんな返事が来たとしても、実はそれは「消費行動」ですよね。歯磨きをするというのは、結局
それをするための、歯ブラシを買っていますし、歯ブラシにつける歯磨き粉も日々減っていって、
なくなれば新しいものを買う。
また、トイレにいっても、使ったあとに水を流せば、そこで水道料金が発生しますよね。
これらも立派な「消費行動」です。
②朝家を出発して何をするか?
もう少し、具体例で考えてみましょう。時系列にのせると、朝もろもろの準備が終わったら、
次は学校なり予備校へと向かいますよね。
家を出ます。そうすると、例えば今日の飲み物をコンビニで買う、交通機関であるバス、電車に
乗るという時にもお金を払いますよね。
そうなると、バスに乗ったとしたら、バスはそこで得た利益をまた先ほど説明したように、「給料」
として社員に配布すること。そして利益の残りでガソリンを買う、車検に出す、などなど
ここでもまた新たな消費行動が生まれるのです。
というように、少々しつこくなってしまうくらい具体例を示しながら、説明をします。
こうすることで、中学生は自分たちの生活に密接に関わっているどころか、
切っても切り離せないものであるということが伝わると思います。
「経済」への視点
生徒たちの目線に合わせて説明をしてきましたので、必然的に「消費行動」つまり消費者からの
視点からの説明の仕方を紹介してきたのですが、「生産」への視点もここで付け加えましょう。
ここで新しい発問として「消費をするためには何が必要だろうか?」と問いかけてみても良いかも
しれません。
時系列でいうと、先ほどと逆の順番で、以下のように説明してはいかがでしょうか。
①消費をするということ
物を買う、サービスに対してお金を払うということは、ものを売る、サービスを提供するという
「生産者」もいます。
②税金
最も、身近なもので言えば中学生の生徒たちも「消費税」を負担していますよね。
生産者側である企業にも法人税というものがかかります。詳述はここでは避けますが、こうした
税金を国に払うことで、国”消防”であったり”警察”であったり”教育”というような公共サービスを行う
のです。こう考えると実は治安などそういった面とも深い関わりがありますよね。
ここまでの説明を終えて、ようやく経済というものは
人間の共同生活を維持、発展させるために必要な資源の「生産」「消費」「分配」活動であり、それらの活動を支えるための公共サービスを伴う政策。そしてそれらの社会関係のことである。
という風に呼べるわけです。本稿は経済分野の入り口の授業の指導法の記事なので詳述は避けますが、
「経済」の定義はいろいろ論争がある中で、この定義はほぼ共通認識となっているので、講師としても
このような捉え方でほぼ間違いないと思います。
まとめ
ここまで、初めて本格的に公民を学ぶ中学生が、彼らの目線で経済というものを理解するために、
どのような指導をすればよいか、具体例を踏まえて提示してきました。
経済学というものは上記のチェックボックスで示したように、
限られた「資源」をいかに最適に配分するか
これを追求してきた学問です。
この部分をしっかり授業で理解できるよう説明していきましょう。
昭和恐慌、ブロック経済圏、バブル景気など例をあげたらきりがありませんが、経済に関する基本知識
がなければこれらの経済問題も何が問題なのかつかめなくなってしまいます。
生徒の高校での後々の学びのためにも、この経済の授業は非常に重要なのです。
指導の際の参考にしていただけたらと思います。以上です。
ここまで長文ご精読ありがとうございました!