展開と因数分解
筆者が子供のときは、因数分解といえば、数学怖い、という印象の担い手でした。現在はどうなんでしょう。そういうワードを小学生に届けてくれた小難しい番組は軒並み無くなってしまったように思います。
そんな因数分解ですが、得意不得意が極端に分かれる単元だったように思います。得意な人はあっさりと解いていく中苦手な人はずっと……、数学は大体こんな感じですが。
このページでは、因数分解とその前提である展開について書きます。ポイントになる部分などを中心に教える全体の流れをつかんでいただければと思います。
まずは展開
因数分解の前には展開があります。この順番を違えて教えるようなことは何があってもやめましょう。例え、そう試験前で因数分解のみが試験範囲だとしても、展開からです。因数分解は、概念の理解がどうしてもしづらい分野です。どうしても「なんでこんなことするの?」となってしまいがちです。まあ、それは仕方がないのですが。括弧を「外す」展開と括弧で「括る」因数分解。対して生徒たちはこれまでほとんどのケースで括弧を「外す」事しかしてこないでいるのです。そして、括弧でわざわざ「括った」のに因数分解の範囲ではそれがゴールです。その後の方程式や関数にならないとそれが意味を持つ事はありません。そのせいで、わざわざ括弧を付け直す見慣れない動作と相まって「何でこんな事してんの?」と思ってしまうのは無理も無い事なのです。
前置きが長くなりましたが、だからこそ因数分解の真逆の概念である展開から始めるべきなのです。もっとも、通常順番通りならそれを違える事はありませんが。
展開の公式
展開を理解する事がそのまま因数分解の理解に繋がります。見慣れた括弧を外す側の動作である内にしっかりと理解に持っていくのが今後の要になります。
さて、展開には公式がありました。公式といえば暗記する、というイメージの方もいるかもしれませんが、数学の公式を暗記するのは愚策です。理解する方法があるというのもありますが、あんなアルファベットと記号の文字列を暗記するなんて馬鹿馬鹿しいとは思いませんか? はっきり言って時間の無駄になってしまいますので、「ま、公式覚えちゃえば楽だから」なんてことは言わないようにしましょうね。
基礎
展開の基礎はこれです。
(a+b)(c+d)から教えても良いと思いますが、数学が不得手な生徒には特にこちらの方から教えていきましょう。これなら計算は2回ですし、矢印を使って行う掛け算を示すのも簡単です。これが理解できて初めて、(a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bdも理解できます。
ここまででやっているのはただの掛け算です。文字を使って掛け算をするという事が分かっていれば困難は無いでしょう。逆に、ここまででどうしても躓くとしたら文字式に不安がある可能性が高いです。そこを確かめた方が良いでしょう。
本番
さて、ここまできたら次からが展開の本番です。
( x + a )( x + b ) = x^2 + (a + b)x + ab
見覚えがありすぎる文字列だと思いますが、ここまでは先程と同じです。ここのポイントは両括弧にxという同じ文字が含まれている事にありますが、やっているのは先程までと同じです。理解できないとしたらひとつ前の段階である(a+b)(c+d)の計算を再度確認しましょう。教える時には最初と同じように矢印を使ったりして計算過程を図示できると分かり易いですよ。
さて、ここまで理解できれば展開はあと少しです。後は全て上記の応用ですから。
( x + a )^2 = x^2 + 2ax +a^2
( x + a )( x – a ) = x^2 – a^2
これらの公式は「覚えていないと駄目なもの」ではなく「覚えていると計算が楽になるもの」です。教える時には絶対、必ず、途中式を入れてください。公式として覚えるのではなく、計算結果として理解させてください。これが理解できていれば、因数分解でやる事は大仰なものではなくなります。それこそ、同じように矢印を引いてその通りに掛け算をしていけば同じ形になるのですから。
これらを理解したかどうかの確認は非常に簡単です。符号をマイナスに変えて同じように計算させましょう。迷うことなく書いていければ理解しているでしょうし、「どこがマイナスになるんだ?」などと考えているようではただの丸暗記をしようとしているだけですので、やり直しです。
因数分解へ
展開が終わったらいよいよ因数分解です。因数分解が出来ないと二次関数は解けませんから(そして二次関数が解けないと今後の数学何もできなくなりかねません)、ここはきっちりと理解しておきたいですね。
説明はおそらくみなさんが受けてきたものと同じで大丈夫でしょう。「展開の逆の事だよ」ではあまりにもお粗末ですから、展開する式と展開された式を用意して、「左辺から右辺へのように括弧を外した式の形にするのが展開なら、括弧で括られた式にするのが因数分解です」という様なもので十分です。括弧の外にプラスやマイナスが来ない事を補足しておくと今後も困らないかもしれません。
幸いにも、中学生の数学での因数分解は非常に単純です。ただ共通因数で括るか公式に従えばそれだけで殆どを回答する事が可能です。
ですが、公式に従うというのが即ち共通因数で括るという事である事を理解するのが大変です。逆に、それが理解できれば因数分解の理解としては十分でしょう。
また、残念な事ですが因数分解の過程を理解するのは非常に困難です。展開と比較して単純に難しく、実際問題その過程を学習するのは高校に入ってからだったと思います(3乗以上の因数分解の時ですね)。生徒に余裕がありそうなら教えてあげても良いかもしれませんが、わざわざ厄介を増やす必要は無いでしょう。学習すべき時にしっかり理解に導いてあげてください。
ただし、そうなるとどうしても公式を覚えるという行為に入らなくてはなりません。だからこそ、展開の公式は内容をしっかり理解するように書いてきましたが、因数分解はそういった特徴を持っていることを覚えておいてください。今まで数学をしっかり理解する事ですらすら解いてきたタイプの生徒の中には、戸惑う生徒がいるかもしれません。
共通因数で括ること
さて、公式を公式として使う事になってしまうのは不本意ですが、そうであるならばここでわざわざ教え方などと大仰な事を言う必要はありませんので、もう少し話を続けます。先述しましたが、公式を使う事と共通因数で括る事は同じことをやっているのだという理解についてです。これが分かっていないと、本当にただ公式を暗記するだけの単元になってしまいますし、それでは今後の二次関数や指数の増えた因数分解の際に手も足もでなくなります。
共通因数で括るのには、数を小さくする効果だけでなく、もっと根本的な部分として式を単純化できるところにこそ利点があります。ですから、共通因数4aで括る事ができる式を教える際には、それが2でもaでも括る事ができる事を教えましょう。そのプロセスを取らないと解けない問題もありますし、様々な数で括る事でその式の全体像が見える事もありますので。その上でそれらの必要が無ければ、もっとも単純化できる4aで括る事を選択し、回答とするのが良いでしょう。
理解の為に
共通因数で括る事はさほど難しいものではありません。ただの公約数の問題ですからね。では、最後に公式はどういう共通因数が出てきているのか。それについてお話してこの記事を終わりにします。
これも非常に単純です。それこそ最初の(a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bdという式ですが、ac+ad+bc+bdだけを見て共通因数を探せと言われても普通は無理です。それで分かる生徒には、(a+b)(c+d)の計算結果がac+ad+bc+bdだから、共通因数( a+b )と( c+d )で括れますよ、といえば良いでしょう。
それでは分からないという生徒には、それぞれのアルファベットに代入しましょう。数字は適当な整数で構いません。すると、ただの掛け算の式になります。たとえばa,b,c,dをそれぞれ1,2,3,4だとすれば計算は3×7になります。答えは21ですが、それを元に戻すと気には確かに(a+b)も(c+d)も約数になっていますね。このように、一旦特定の値を与えた後に一般化してあげる事で、実感がわきやすくなります。
さいごに
先にも述べましたが、因数分解は今後の数学の基礎になる考え方です。これが出来て初めて本格的に難しい関数の世界に入っていけるようになります。覚えなくてはならない部分が出てきますが、可能な限り暗記ではなく理解の範囲で生徒の勉強を支えるようにしましょう。
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