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【社会科講師必見】わかりやすい公民分野指導法~日本銀行の役割~【中学社会】

中学生

2021/12/17

生徒にとってのお金の話

拙稿「『経済』とはなにか?~経済分野入門指導法~」(URL:http://www.juku.st/info/entry/815)
では、中学生の社会科公民分野の「経済」の第1回目の授業でいかに中学生の生徒の目線で
わかりやすく説明するか、そして、生活と密接に結びついているものかという2点について
指導法を紹介しました。

ドル束

本稿では、その続きで、そもそもお金とは何か?
日本銀行が国単位でどのように経済をコントロールしているのか。
という部分の指導法をご紹介したいと思います。

前稿でも簡単に触れたのですが、生徒は普段何気なくお金を使っている経験があるので、
お金や経済のことについては生徒のそうした経験を利用すると説明がしやすいのですが、
逆に言えば経験があるがゆえに生徒はわかっている気持ちになってしまって講師の説明を
聞き流しがちになってしまうというデメリットもあります。

そこで、本稿では「生徒の自明性を疑う」ことを入り口に、生徒の興味を引き出して、
授業の世界に包み込むような授業を作るにはどうすればよいか。
読んでいただいている皆さんに考えていただけるような記事にしてゆきます。

 お金とはなにか?

まず、授業の冒頭の部分で、普段中学校の生徒も当たり前のように使う「お金」の自明性を
疑ってみましょう。筆者は、生徒たちに以下のようなパネル教材を提示しました。

経済クイズ②

いかがでしょうか?1枚目の問が「お金は何故通貨として利用できるのか?」という
お金に関する勉強のまさに出発点であり、本質的な問です。
2枚目の、兌換紙幣・不換紙幣の問題はお金、紙幣にも2種類があって、現在の日本は
どちらの紙幣を利用しているのかという問です。

筆者の指導経験上、これを習う中学3年生の生徒が、これらを完璧に説明し切ることは非常に難しい
と思います。恥ずかしながら筆者も個々の言葉の意味は知っていましたが、
塾講師として指導をするために予習をすることでこれらの関係性もちゃんと説明し切ることが
出来るようになりました。

こうした発問を投げかけることで生徒も自分たちが当たり前のように使っていた「お金」も意外と
その本質を捉えられていないことに気が付くことが出来るのです。

何故、お金はお金として使えるのか?

では、実際に授業でどのように指導するかという点に入って行きましょう。
まず、1つ目の問は「何故、現在日本各地で1000円札に価値があるのか」というものでした。
講師の皆さんだったらこの問に対してどのように答えますか?これは実は非常に難しい問題です。

というのも、これの答えが非常に曖昧なものなのです。
色々答え方はありますが、これの答えの一例は以下の様なものです。

「皆が1000円札にお金の価値があると思っているから」

いかがでしょうか?これは言われてみれば確かにそうなのですが、
「何故価値が有るのか」と聞いているのに、「価値があると思っているからだ」と答えている。
答えに全くなっていませんよね。
後ほど詳述しますが、現在の日本の不換紙幣というシステムでは、この問に対するこれ以上の答えは
出てきません。
(国による法的な定義はありますが、これもこの問の答えにはあてはまりません)

例えば、
「空は何故青いのか?」という問に対して、「青いからである」という答え、
「何故人間の手には指が5本あるのか?」という問いに対して「5本あるからだ」
と答えているのと同じなのです。
答えであるはずなのに、結局質問と同じ意味の言葉を繰り返している。
これを「トートロジー」(同義語反復)と呼ぶのですが、
日本の現在の紙幣というのはこれが通用している状態なのです。

では、何故このようなトートロジーが起こるのでしょうか?
ここから次の兌換紙幣・不換紙幣の説明へとつなげていきましょう。

兌換紙幣

まずは、兌換紙幣です。
独特な言葉ですが、「兌換」という言葉は「取り替える」という意味です。
紙幣と何を取り替えるのか?当時の兌換紙幣を見るとわかるのですが、「この紙幣は金~分の価値がある」
と必ず書いてあります。

金

日本は、もともとはこの兌換紙幣を用いていました。
現在の日本は紙幣を発行することの出来る権利があるのは日本銀行のみですが、
この兌換紙幣を用いている頃は、各銀行が持っている金の量の分だけ、独自にお札を発行することが出来ました。「金」を担保に紙幣の信用を保証する。このシステムのことを「金本位制」と呼びます。

この兌換紙幣は、先ほどの「トートロジー」と違い、しっかりと「金」という裏付けがありますから、
お金の価値という点では、具体性のある紙幣だということが出来るでしょう。

もちろん、デメリットも有ります。「金」というのは”限られた”資源です。(だからこそ、価値があります)
しかし、限られた「金」の分しかお札が発行できないというのは、経済活動に制限を加えることにも
なってしまいます。
例えば、企業が新しい事業に乗り出すために、銀行にお金を借りたくても、「金がないから交換できません」
というようなことが日本中あちこちで起こったら、国単位の経済の成長は停滞してしまいますよね。

また、例えば兌換紙幣を取り替えることの出来る銀行が、経営難などで潰れてしまったとしましょう。
そうなると、自分の所有していた預金をしていた側の兌換紙幣の分の金が回収出来ないということも
起こってしまうのです。
1つの銀行が潰れると、他の銀行の経営は大丈夫だろうか?という金融不安につながります。

ここで、次の「不換紙幣」の説明に移るとそのつながりが分かります。

不換紙幣

こうした金融不安が進むと、紙幣を持っている人が兌換紙幣を金に交換する取り付け騒ぎも起こりますし、
何より経済の発達が妨害されてしまう。

グラフ

こうした背景を基に生まれたのが、この「不換紙幣」です。
各銀行にお金の発行を任せていると、金融不安が起こってしまうし、経済成長にも限界ができる。
ならば、金ではなく、国の信用を背景とした中央銀行だけがお札を発行できるようなシステムへシフトしよう
ということで、紙幣の価値を裏付けるものが「金」から「信用」へと移り変わりました。

そして、この中央銀行こそが現在にもつながる「日本銀行」なのです。
今現在でも、世の中に流通しているお札の発行権を持つのは、日本で唯一この日本銀行のみです。

先ほど「金本位制」の説明で、「金本位制」では保有している分の金のみの経済活動になってしまう
という説明をいたしました。
しかし、それでは経済成長が止まってしまう、20世紀当時の先進諸国は近代化が遅れてしまうことを
危惧しました。
こうした背景から「金本位制(兌換紙幣)からの離脱」=「不換紙幣」への転換をしたのです。

つまり、紙幣の裏付けである「金」はなくなりましたが、皆が皆「お金に価値があると思っている」
状態。まさしくトートロジーなのですが、このような状態になっていれば
それは紙幣として利用することが出来るのです。

まとめ

本稿では、生徒たちが当たり前に使ったことがあり、これからも付き合い続けていくお金のことに関する
分野の指導法を紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?

「今日本で使われている紙幣は何故紙幣として通用するのか?」という一見当たり前のように思える
質問の先にはこうしたいきさつ、そして深みがあるということが生徒に伝えられると思います。
生徒の思考の流れを簡単にまとめると

・現在使われている紙幣は何故お金の価値が有るのか」
・実は、「皆がそう思っているからで、ちゃんとした答えがないトートロジーの状態なのか」
・では、実際に価値の裏付けのある紙幣もあるのだろうか?
・兌換紙幣という不換紙幣、2種類の紙幣が生まれたのはこうした背景があったからなのか

というように、生徒の思考の流れに沿った学習展開となっていることがお分かりいただけると思います。
このように生徒だったら次は何を疑問に思うのか?という点を予習の段階で突き詰めて指導計画を
寝るようにしましょう。
今回紹介した授業も次の授業への伏線を貼っています。それは

兌換紙幣のお金の価値の裏付けは金だが、不換紙幣は何がその価値の裏付けとなっているのか?

というものです。先ほど、「信用」とは説明しましたが、具体的な部分についてはまだあえて
触れていません。
次回の記事では、今回の授業での指導で生徒に残る疑問点、興味をいかに解決するか、について述べていきたいと思います。

以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!

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