不換紙幣を価値付けるもの
前記事「中学社会・公民分野指導法~日本銀行の役割~」(URL:http://www.juku.st/info/entry/833)では、
生徒が日頃から使っている「お金」というものが、何故お金として利用することができるのか。
そして、歴史的には兌換紙幣・不換紙幣の2種類がある。ということを学んでもらうための指導法を紹介してきました。
本記事から読んで下さっている方もいらっしゃると思うので、簡単におさらいをします。
日本はもともと、「兌換紙幣」というシステムを採用していました。
兌換紙幣は、「金」を担保にその価値を保証する「金本位制」というシステムの中で生み出されます。
つまり、各銀行の発行した紙幣を銀行に持っていけばいつでも該当分の「金」と取り替えることのできる、
具体性のある紙幣でした。
その反面、保有している「金」の分だけしか経済活動ができず、いざというときの
大がかかりな金融政策が実行できない可能性があるというデメリットも有りました。
そこで、紙幣の価値の裏付けを「金」ではなく、国の「信用」を利用する方向へシフトします。
中央(日本)銀行のみにその発行権を与えていくことにしたんですよね。
これが「金」と交換することができない「不換紙幣」です。
ここまでが前回紹介した指導法の具体的な内容です。
しかし、これだとまだ1つの大きな疑問が残ってしまいますよね。前記事でも最後の部分で触れたのですが、
兌換紙幣が「金」のグラム、キロ数など「重さ」を基準に紙幣を発行していたのに対して、
不換紙幣は何を基準に発行されるのか?
という問が生まれています。
先ほど述べた「信用」というのは数字化することができませんよね。
筆者は、授業終了時に生徒がこの問を説明できるようになることをテーマに授業を実践しました。
あくまで筆者の授業実践は一例ですが、講師の皆さんが「自分だったらどうするか」ということを考察できるような指導法の紹介をしたいと思います。
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日本銀行の仕事
さて、この不換紙幣の謎を追っていく上で、何を勉強していけばよいのでしょうか?
講師の方によって様々なアプローチがあると思いますが、
筆者はやはり不換紙幣を発行している日本銀行の仕事をもう一度丁寧に追うことで、この問を考えるような
授業にしていました。以下、順番にそって具体的にご紹介します。
仕事①:「銀行の銀行」
まず、普通の銀行と最も違う部分です。
民間の銀行は口座を開設した消費者が、銀行にお金を預けたり、借りたりすることができます。
それに対して、日本銀行というのはこうした個人の預金は受け付けない代わりに、
「銀行の銀行」、もっと具体的に言えば「民間銀行の銀行」となるのです。
各民間銀行はこの日本銀行に預金口座を設けています。民間の銀行ではお金を預けると利子がつくのですが、
日本銀行には預けても利息はつきません。これを「当座」預金と言います。
何故、民間の銀行はわざわざ日本銀行に口座を開設するのでしょうか?
これにもきちんと「決済」という理由があります。
私はこれを以下のように説明しています。
<説明例>
例えば、大学で地方出身の人が、学費を大学に振り込む時、教科書を購入する時、どのような
場合でも良いのですが、親が子にお金を送金しなければならない場面があるとします。
親が持っている口座はA銀行のもので、息子の持っている口座はB銀行です。
親は自分のA銀行に預けているお金を息子のB銀行に振込まなければなりませんよね。
今はATMの画面上で簡単に振込み作業ができます。
さて、次に振り込んだ後のことをイメージしてみましょう。
実際にお金はどう移動するのでしょうか?
おそらく毎日、日本中どこかでこうしたやりとりが行われている中で、その都度A銀行の人が
B銀行の人にお金を手渡しで渡すでしょうか?
間違いなく、これをやっていたら仕事量に追いつけず、銀行の他の業務はできなくなると思います。
ここで登場するのが、この日本銀行です。
日本銀行に口座を開設しているだけで後はA銀行の口座からB銀行の口座へお金を移動してくれるのです。尚、こうした銀行間のお金のやりとりを「決済」といいます。
つまり、日本銀行は決済を受け持ってくれる、ということですね。
いかがでしょうか?実際に大学で上京した子供へお金を送る、という具体的な場面を想定して
決済という仕組みの説明を行いました。
ここまで理解してもらってから、次の2つ目に入りましょう。
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仕事②:政府の銀行
先程も少し触れたのですが、銀行に対してのみ口座の開設を許可しているので、個人単位でお金を預けたり
することはできません。
では、全く私達のお金の動きは関係ないかというと、そんなことは全くありません。
間接的にですが、実は消費者である私達は日本銀行の金庫に日常的にお金を届けています。
さて、それは一体何でしょうか?生徒たちに考えてもらっても良いかもしれません。
政治分野のことを思い出しながら聞いている生徒はもしかしたら答えられるかもしれませんね。
それは、物を買うときに一緒に払っている「税金」です。
つまり、私達国民が払っている税金は、日本銀行の金庫へとつながっているのです。
公共事業などを行ったり、お金のかかる政策を実行する際には、政府はこの金庫からお金を引き出して
いる、ということです。
余談ですが、こうしたことを説明すると、興味深いことに授業の後、生徒たちから
政府がお金をちゃんと無駄遣いしていないのか知りたくなったという声を聞く機会が多くなったのです。
生徒たちは、それまで漠然となんとなく、税金が国政に使われることは知っているのですが、
その具体的な道のりを知ることでより自分も日本経済の一員である自覚を持つのかもしれませんね。
仕事③:日本銀行券発行
ここで、もう一度日本銀行の最も重要な部分を思い出してみましょう。
それは、国の信用を背景に紙幣を発行することの出来る唯一の発券銀行である、ということでしたね。
ここで生徒に紙幣を提示してみましょう。
千円札でも5千円でも1万円でも必ず小さく「日本銀行券」という名前が書かれています。
これが今現在の日本の紙幣の正式名称です。
日本銀行の役割をしっかり頭に入れてから見つけると、生徒たちも
だからこの名前なのかとしっかり納得してくれます。
最初の問に戻りましょう。問は「不換紙幣(日本銀行券)は何を基準に作られているか」というものでしたね。
繰り返しになりますが、「金本位制」に基づく、兌換紙幣は金こそがその価値を裏付けていました。
不換紙幣は何が基準になっていると思うでしょうか?
実は、不換紙幣発行の基準は「国債」なのです。
さて、「国の借金」が基準とはどういうことか。
授業の山場の部分なので、ここで再度指導例をご紹介します。
<説明例>
「国債」というのは言い換えれば、「国の借金」のことですね。
国の借金を「債券」という利子が付く形で発行し、買ってもらうというシステムです。
つまり、借金の量によって、この「国債」の発行される量も変わってきます。
毎年政府はその年度に使う予算を決定し、その年に発行する国債の量を決定しています。
ただ、そこで決まった予算の中でおさまるということは特に現代の日本では無いと言っても
過言ではありません。(詳しくはまた別記事で紹介します)
東日本大震災、広島県の土砂災害、先日起こった長野県の大地震、そうでなくとも国債をたくさん発行
している中、各被災地の復興をするためにこうした臨時の支出も捻出していかなければなりません。
今年度から消費税が8%に上がったことからもわかるように、1つの国を維持していくというのはとても
お金のかかることなのです。
政府にとっての銀行、つまり日本銀行の金庫のお金以上に必要な場合はどうするのか。
ここで発行するのがこの国債です。この国債を民間の銀行や、個人が購入します。
そうなると、発行した国債が売れた分、日本政府にお金が入っていきますよね。
そして、政府が発行した国債を購入した民間銀行や個人から、日本銀行は買い上げます。
この時、買い上げる額の分だけ、日銀は紙幣を発行するのです。
これが日銀が発行する不換紙幣の誕生までの仕組みです。
もちろん、発行した国債全てを購入するわけではありません。
景気の状態によって個人や民間銀行から買い上げる国債の量を見極めて、
世の中に出る紙幣の量を調節しているのです。
まとめ~歴史との関連~
本稿では、以上のように、不換紙幣の価値の裏付けになっているものが「国債」である。
という説明をいかにするかという事について述べてきましたが、いかがだったでしょうか?
最後に1つ講師の皆さんに考えていただきたいことがあります。
なぜわざわざ国債の分の紙幣を日本銀行が直接印刷せず、個人や銀行を通して買い上げる形にしていると
思いますか?
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実は戦前の日本と深く関わっています。戦時中、日本は軍事費のために国債を大量に発行しました。
戦争費調達のため日本銀行に国債の分をそのまま印刷してもらうというシステムを用いていたのです。
紙とインクと特殊技術があれば、紙幣は印刷ができます。しかし、大量に発行してしまうと
世の中に大量の紙幣が出回ってしまいますよね。
そうなると、紙幣の価値が下がり、物価が上がり続けるというインフレーションが
1930年代の日本を苦しめました。
こうした反省もあって、国がお金が必要なときすぐに日本銀行に印刷させて、インフレーションが起こらないようなシステムを作ったということですね。
公民分野の指導法ですが、実は歴史とも深く結びついている。こうした分野をこえた学習がよりその授業の
質を高めていくことになるはずです。
是非授業の予習の際には、生徒に教えたことをどう有効活用してもらうか、ということも考察してみてください。以上です。皆さんのご活躍をお祈りしています。ここまで長文ご精読ありがとうございました!