例文で覚える冠詞の感覚
冠詞とは名詞の前によくついているa /theのことです。こんな小さなものなんてつけてもつけなくても一緒だろと思っている人が多いようですが、これがあるかないかで一文の意味がまるで違うものになってしまうほど、この冠詞というものは、英文において強大なパワーを持っています。外国の方と話すとき何よりも注意を払う必要があるものと言っても過言ではないほどこのaやtheは重要なものなのです。
では内容に入っていきます。
冠詞というものは感覚で学ぶのが一番です。ですが、その感覚を最大限にまで高める必要があります。それができるのが例文を使っていろいろな分を見比べてみることです。では、具体的ににどのようにすればいいのか、説明していきます。
cat
赤は注意して注目していただきたい箇所です。
1 Tom has a cat.
2 Tom has the cat.
3 Tom has cat.
4 Tom has cat food.
これらを訳してみてください。どれも同じように感じるかもしれませんが、実は全然違うのです。
1 トムは猫を飼っている。 *一般的な猫を指す
2 トムはその猫を持っている。*犬ではなく猫だと特定している
3 トムは猫肉を持っている。
*<肉>を表す場合、無冠詞にして表すものがある(chickenやpigeonなども同じ)。
4 トムは猫の餌を持っている。
では、それぞれの例文を細かく見ていきましょう。
普通に「トムは猫を飼っている」と言いたいときは1の
Tom has a cat.
と言います。ただしこの言い方は少し冷たい言い方になってしまうことを覚えておいてください。<猫>は世の中にたくさんいるものなので、単に Tom has a cat. と言うと、その中の<どうでもいい一匹>を飼っている、という印象を与えてしまうことがあるからです。もし自分もその犬に愛情を持っていて、そこから会話を広げたいと思っているなら、
Tom has a cute cat.
というふうに、何かしら形容詞をつければオーケーです。ですが、形容詞をつけた際にも a を使うことは忘れないで下さい。cute cat は他にもたくさんいるから a が必要になるのです。
また、相手がその猫のことを知っている場合に
Tom has the cat.
と言うと、「トムがその猫を持っている」ではなく、「トムが自分の飼っている猫を連れている」という意味になります。相手が認識しているかどうかで意味が変わってくることもあるということです。
では、無冠詞にするとどうでしょう。
Tom has cat.
とすると、「トムは猫肉を持っている」という意味になります。実はこれ、高校の入試問題で出たことがあるのです。問題の作成者はやはり日本人ではなく外国人の方だったそうです。なぜこれが<猫肉>になるのかというと一般的に食肉とされるものはbeef(牛肉)、pork(豚肉)など、<食用の名前>が動物としての名前とは別にあります。しかしそうではないもの、つまり食用の名前を持たないchicken(鶏)やpigeon(鳩)などに関しては、<肉>を表す場合、無冠詞にするというルールがあるからです。
またもう一つの解釈もできます。無冠詞にすることで、catが<形容詞>のニュアンスで使われていて、後に名詞が続く(cat.....)ように意味を取られる可能性もあります。つまり、まだ話が途中である印象を与えてしまうのです。どういうことかというと、「トムは猫の…を持っている」と誤解されるおそれがあり、「え、猫なのに?」と相手は話の続きを待つかもしれません。それが次の例です。
Tom has cat food.(トムはキャットフードを持っている)
このようにcatの後に<数えられない名詞>が続く場合、無冠詞で言うことになるため、「catの後に何か続くかもしれない」と期待させてしまうのです。
ちなみに動物のエサは、ペットである犬や猫の場合、dog food、cat food などと言いますが、家畜の場合はchicken food、cow foodではなく、chicken feed 、cow feedのようにfeedを使います。
普段なんとなく使っている冠詞を丁寧に解説していくと、このようになります。簡単な単語のcatですら、冠詞の違いや有無でこれだけさまざまなニュアンスに変わるのです。
この一例だけだとピンとこない方も多いと思うので、他の文も紹介していきます。
hospital
①He works in a hospital.
②He works in the hospital.
③He works in hospital.
④He works in hospital clothes
①彼は病院で働く。
②彼は例のこの近くの病院の方で働く。
③彼は病院の…で働く。
④彼は病院の服を着て働く。
②の文は、the hospitalとしていることから、「ほら、この近くのあの例の病院のことだよ」などと、話をしている者同士が病院のことを分かっていることが読み取れます。②の文に関しては、この文のみで使うのはあまり効果的ではありません。実践で使うとするなら、例えば
He works in the hospital and his brother works in the factory.
(彼は病院の方で働き、彼の兄は工場の方で働く。)
のような感じで使うのが自然だと思います。theの感覚もなんとなくつかめてきたでしょうか。また、余談ですが、イギリス英語ではHe works in hospital.は自然ですが、アメリカ人の耳には不自然に聞こえます。また「彼女は入院している」は、イギリス英語ではShe is in hospital.アメリカ英語ではShe is in the hospitalとなります。
tiger<総称表現>
①A tiger is a dangerous animal.
②The tiger is a dangerous animal.
③Tigers are dangerous animals.
①トラというものはたくさんの危険な動物の中の1つだ。
②トラなるものは危険な動物だ。
③トラは危険な動物だ。
①は、a/anを付けて総称的に「…というもの」「すべての…」という意味になる例の1つです。ネイティブの方が①の文を見ると、トラを見たことがない人が遠くから言っているよう(図鑑を見ながら言っているような感じ)に感じるそうです。
②はその種類に属するもの全体を指して「…なるもの」「…というもの」という意味になるtheの総称用法を用いた文になります。①と似ていますね。②のようにthe tigerというと「偉大なるトラ」と言っているように感じます。親が子供に「トラという偉大な動物は危ないんだ」と教えているように聞こえます。
一方③は、ただ単に「トラは危ない」と言っています。これが最も自然な会話文となります。<自然な英語>という観点から言えば③ですが、ほかの文も状況によってはつかえなくもないですね。そこが英語の難しさだと私は思います。
the station か a stationか
よく使う文というよりは日本ではみなさん使われることのほうが多いと思われるこの表現。
Please tell me the way to the station.
(駅への道を教えてください。)
中学校あたりでみなさん覚えたと思います。ところでなぜこの表現をPlease tell me the way to a station.とは言わないのでしょうか。
見知らぬ人に駅の場所を尋ねるとき、行きたい駅がそこから一番近い駅だということは常識的に判断できます。そこで、the nearest station の意味合いで、the stationとなるのです。a stationとしてしまうと<どこでもいい一つの駅>ということになってしまいます。これでは、例えば新宿駅の近くで駅の場所を聞いているのに、大宮駅への行き方を答えてもいいことになってしまいます。少し極端な例になってしまいましたが、このように、常識的に何を指すのか判断できることの場合には、theをつけることがあるのです。これもtheの<聞き手、話し手の両者の認識>という原則にそったものです。
この表現は、私たちが日本にいるときは言われる側ですが、私達日本人が外国に行ったとき、必ず一回は使うときがきます。その時にスムーズに会話できるようにしっかりtheを使うことを覚えておいてください。