at <今を生きる>
最近ネイティブの方と話す機会が多いので、私が今まで英語に携わるにあたり、一番厄介だと思ってきた前置詞が実際、ネイティブの方がどう思っているのか、簡単に聞いてきました。まず最初にお伝えしておきたいのは、前置詞は覚えるものではなく、感覚で扱うものだそうです。では、私の感じたことも含め、それがどのようなものなのかを具体的に紹介していきます。今回は前置詞atに要点を絞って説明していきます。
感覚① 外側から絞り込む
ものさしや温度計には目盛りがついていますね。目盛りは、寸法や気温を細長い帯状の物のなかの位置として見せてくれます。一つの数字がぽんと与えられるのではなく、他の数字を排除して一つにたどり着きます。atも同じです。atはよく場所を示すときに使われますね。歩く道には目盛りはありませんが、意識の中で区切りをつけます。
例文です。
We met at the bookstore.(私たちはその本屋で会った。)
Turn right at the building.(そのビルを右に曲がってください。)
どちらも、花屋でも寿司屋でもなく他の何でもなく本屋、またはビルというように、他の可能性を排除して一つの場所にたどり着いています。このように対象を外側の至近距離から見るのです。
中でも階段なんかは区切りがよく見れます。
He paused at the top of the stairs.(彼は階段の一番上で立ち止まった。)
また、教育課程には階段ならぬ抽象的な段階があります。
She is a teacher at a high school.(彼女は高校の先生です。)
学校を教育機関とみるときは、小学、中学、高校、大学と言った段階があり、全教育課程のうち、ここ、と言うような感じでatを使います。これに対して、学校を一つの組織とみるときには、その学校だけをみて、学校内部での役職などをofで表します。「生徒として卒業したら、先生」「五年間先生やったら教頭先生」などというような段階はありませんからね。
He is the principal of a high school.(彼は高校の校長です。)
<外側から全体を見渡したうえで、焦点を絞り込む>はatを理解するコツであることがわかっていただけたでしょうか。時間やその他の抽象的な例でも同じことがいえます。
I visit my grandmother at Christmas.(私はクリスマスには祖母のところへ行きます。)
At these words, she left.(こういわれて彼女は立ち去った。)
The snow was at its worst.(雪は最悪の状況だった。)
Do one thing at a time.(一度に一つのことをやりなさい。)
では上の文から順に解説していきます。「クリスマス」はonとは限らないのです。一年を心の目盛りで区切って「クリスマスの時期」を選び、atを使ったということです。「立ち去った」の文では、前にいろいろあった、いろいろ言われた、その後この言葉でついに切れた、という感じをatで出しています。atは他のもろもろをやり過ごして一つに焦点を当てるので、<他のもろもろ>が暗黙のうちに含まれます。
「雪」の文では、雪には様々な局面があります。適度な雪の量であれば、雪合戦などが出来て楽しいですが、大雪であれば、事故が起こったりしますね。このように刻々と状態を変えるものと考えれば、atが一番適切な前置詞であるということになります。「一度に二つ」の文では、何かが一度、二度、三度と何度もあることが分かります。この文は通常、「あまりせかさないで」や「一度に何もかもやろうとしないで」という意味で使われますが、裏を返せば「次に持ち越すな」と言っていることにもなりますね。
またこんな形でも使われます。
Come and see me at break.(休み時間に来てくれ。)
職場では、一日の時間割がありますね。この文で「休み時間」といいながらも、忙しい感じがするのはatゆえです。次々と日課をこなす中での休憩時間です。休み時間になったらすぐ行かないと叱られそうな雰囲気がatによって出されています。
②活動中であるという感覚
atは今という瞬間を生きていることを表しますから、活動をする様子を表すのに向いています。
He is at lunch.(彼は昼食中です。)
She is at work.(彼女は仕事中です。)
よく使われるHe is good at soccer(彼はサッカーがうまい)などのbe good atも、直訳すれば「彼はサッカーをしているときgoodだ」ということで、実際に彼がサッカーをしている様子を想像すると、なんとなくこの感覚をご理解していただけるでしょうか。次の例文でもatを含む表現は、「あの時あの場所」での臨場感を表します。
I met my friends at a party.(私はパーティーで友達数人と会った。)
The two nations are at war.(その二国は交戦状態にある。)
対照的な感覚もつかみ理解を深める
atとin
atはいくつかの点においてinと対象的です。まず外側の視点を持つatと違い、inは初めから一つのものの内側しか眼中にありません。次の文を見てください。
We met in the bookstore.(私たちはその本屋で会った。)
偶然に出会ったのか、それとも待ち合わせして会ったのかは前置詞ではわかりませんが、会った後、書店の中で本を選んだり探したりした、ということは読み取れます。書店の中が活動の場であり限界でもあります。
一方atを使った先程の例文を覚えているでしょうか。atを使った方の文では書店(の中または外)で偶然に、あるいは待ち合わせて会った後、一緒にどこか別の場所へ行ったのかもしれません。そんな想像ができるのも、話し手が書店の外を視野に入れているからです。
次の文を見てください。
She teaches in a British university.(彼女はイギリスの大学で教えています。)
この文ではatも使えますが、inを使うことで「高校か大学か」という段階の対比が消えます。inを使っている話し手が、内側からその大学を見ているからです。しかもinはあまり動きを感じさせません。活動的なatと違い、inは状態を表します。
This school is in recess until January 8.(この学校は1月8日まで休みです。)
More people are in work than five years ago.(5年前より多くの人が職に就いている。)
③至近距離的感覚
atは外側から至近距離で見るという感覚について、一番最初に軽くふれました。では、最後にそのことに関してもう少し深く説明していきます。
atはある場所にどんどん近づいていって、このうえない<至近距離>からその場所を見ることを表します。
There is someone at the window.(窓のところに誰かいる。)
この至近距離はゼロとは違います。この例でも、「誰か」は窓に密着することはできても、窓そのものにはなれません。このような、そのものではない距離感を、atが表します。次の例でもatがわずかですが、距離を作り出しています。
A man grabbed at my arm.(男が私の腕につかみかかってきた。)
他動詞のgrabの後にあえてatを挿入することで<至近距離>が表されて、掴みかかろうとする動作がイメージできます。しかし、実際に掴んだかどうかはその後の文を見ないと分かりません。この文の後に、「でも、私はとっさに身をかわして、急いで逃げた」などと続けば、男は腕を掴むことが出来なかったと解釈できます。また、他動詞だけでA man grabbed my arm.と言えば確実に掴んだことになるのですが、atで距離感を出した文は違います。たかが至近距離と思うかもしれませんが、ネイティブの方はこういうのに意外と敏感です。注意して使い分けましょう。
もう一つ、atをうまく使って微妙な距離感を出した文を挙げます。
Tom took another sip at his wine.(トムはワインにもう一度口をつけた。)
この文からは、トムがグラスに口をつけるかつけないかで、すすった様子が伝わってきます。これはなかなかきわどい文です。普通にofを使うと距離は消えます。
atの至近距離の感じを時間に応用した例を最後に紹介します。では何かを依頼されて行動を起こす場面を想像してみてください。<依頼>と<行動>という二つの出来事の近接関係だけをさりげなく表すのに、つかず離れずと言った感覚のatは有効です。
I am cleaning this room at the request of Tom.
(トムの依頼によりこの部屋を掃除します。)
最後に
なんとなくatの感覚というものを分かっていただけたでしょうか。なんとなくで十分OKです。感覚というものは実際にやっている内につくものです。外国の方と話すときに、今回紹介したこれらのことを意識するだけでだいぶ感覚の定着も早まると思います。ぜひ、今回紹介したこのatの感覚。このなんとなくの感覚を、完璧につかめたというほどまでに上達することを期待しています。ぜひ役立ててみてください。